別れさせ屋は恋愛不信な彼女との運命の愛を離さない
「ねえ、いいでしょう? ご褒美、もしくは報酬」
 頬の涙をすくうように、彼は目じりに口づける。

「あなたをあの男と別れさせたから」
 冬和は苦笑した。
 悲しいはずなのに、胸がこんなに痛いのに、どうして心のどこかに甘いものがわいてくるのだろう。

 冬和は返事の代わりに目を閉じた。
 唇に、彼の唇がやわらかく重なった。両手が優しく彼女を包む。

 壊れ物を扱うように唇を割った舌が、そっと彼女の舌を撫でる。
 背筋がぞくっとした。彼は丁寧に確かめるように、そうして決して彼女を離してくれない。
 長い口づけを終えると、彼はまっすぐに冬和を見つめた。

「オレと本当につきあって」
 言われた言葉に、冬和は驚く。

 熱を帯びた瞳に、おののいた。
 彼が一人の男になってしまった、と肩を落とした。

 と同時に、朝の女性が脳裏に浮かんで心が冷えた。

「あなたの恋人が会いに来たわ。あなたをとらないでって言った」
「恋人なんていない」
「同棲してるんでしょ?」
「ただのルームシェア」

「彼女はそう思ってないみたいよ」
「手すら握ってない」
 むっとしたように久遠は言う。

 本当だろうな、と冬和は思った。今まであけすけに語ってきた彼が隠すとも思えなかった。

 そうだとしても、彼とつきあうなんて考えられない。
 彼との関係が大切だから。だから――。
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