別れさせ屋は恋愛不信な彼女との運命の愛を離さない
「私、結婚したいの」
 咄嗟に出た言葉がそれだった。思ってもみなかった言葉に自身で驚き、慌てて付け足す。

「学生とは結婚できないわ」
「恋愛不信っぽいのに。結婚したいんだ?」

「だからこそよ。曖昧な感情ではなく、きちんと形で繋がって安心したいの」
「無意味だよ。離婚のために別れさせ屋を雇うやつら、多いんだよ?」

「離婚しない夫婦の方が多いわ」
「好きなんだよ」
 冬和を見つめる真剣な目に甘さなどなく、恋をする人に特有の熱を感じた。
 彼女はにっこりと笑った。

「そうやって口説くのね」
 自分でも意地悪だと思う。が、ここはひけない。

「なんで信じてくれないの」
「どう信じればいいの? あなたが雇われて口説いてる、そうじゃない保証はないわ」
 久遠は顔を険しくした。

「別れさせ屋は辞めてきた」
「それが本当でも、あなたの年齢すら知らないのよ。知っているのは名前だけ」
「オレだってそうだよ。だけど好きだ」
「私は好きじゃないわ」

「キスしたじゃないか」
「報酬と言ったのはあなたよ」
「便宜上じゃん」
「別れさせ屋なら演技でキスも、それ以上もするんでしょう?」
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