別れさせ屋は恋愛不信な彼女との運命の愛を離さない
「するときもあるけどさ……」
「正直ね」
 冬和はまた笑顔を見せた。

「嫉妬してくれないの?」
 久遠の目に悲しみが浮かぶ。
「する必要なくない? 嫉妬されて喜ぶ人でもないでしょ?」
「あなたからの嫉妬はほしいと思ってしまったんだ」

「無理な話ね。私、薄情なの」
 冬和が断言すると、久遠はさらに顔を険しくした。
「私たち、もう会わないほうがいいわね」
 はねつける言葉に、久遠は口を引き結んだ。

 冬和は歩き出す。
 決然とした姿に、久遠はただ立ち尽くしていた。
 湿気を帯びた重い夜が、おさえつけるようにのしかかっていた。



 一人暮らしのアパートに帰り、冬和はため息をついた。
 がらんとした部屋は真っ暗で、孤独の象徴のようだ。スイッチを押して部屋が照らされると、むしろ寂寞(せきばく)が濃度を増した気がした。

 バッグを置いて、まずはシャワーを浴びる。
 ぬるいお湯に打たれながら思うのは、久遠の人懐こい笑顔。
 好きだと言われて、うれしかった。
 正直なところ、自分も彼に惹かれている。

 つらいときに会いたくなって、いないとわかると悲しくて。一緒にいると、心は穏やかに熱を帯びた。
 そんなの、恋でしかありえない。
 だけど。
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