別れさせ屋は恋愛不信な彼女との運命の愛を離さない



 翌日の出勤も気が重かった。
 同僚たちの目は気になるし、杏奈には会った瞬間ににらまれた。営業の浩之は取引先に直行らしくて来ていない。

 いっそ遠くへ行ったほうがいいかもしれない。
 課長から打診された異動を思う。
 どこへの異動だろう。地方だろうか。
 それなら久遠にはもう二度と会わないだろう。

『お姉さんの好きな物ってなに?』
 問いかける彼に、思いつくものを羅列した。夜の中、二人だけの時間は心地が良かった。
 冬和は泣きそうな気持ちで口の端に笑みを浮かべた。

「私の好きな物、一つ増えたわ」
 誰にも聞こえないのに、彼女は呟く。
 脳裏には、彼の輝くような笑顔が浮かんでいた。

***

 久遠は重い頭を抱えて帰った。
 もうすでに昼だ。
 冬和にふられたあと、朝方までやっているバーで飲んでいた。

 体は泥のように重く、鍵を出すのもめんどうだ。
 ドアを開けると、おかえり、と声がして未波が現れた。

「どうして」
「会社は休んだの。お水、いる?」
 未波が言う。
「いらない」
 苛立ちながら彼は答える。
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