別れさせ屋は恋愛不信な彼女との運命の愛を離さない
「オレ、出て行くから」
 靴をぬいで、久遠は言った。近いうち、未波が仕事でいない間に出て行くつもりだった。会社を休んでまで待たれるとなると、一刻も早く出て行きたかった。

「どうして」
「好きな人ができた」
 部屋に入り、久遠はスーツケースを取り出した。いつでも出て行けるように荷造りは終わっていた。

「あの人ね。百合宮冬和」
 追いかけて来た未波が言う。
「なんで知ってるの?」
「調べたから」
 言われて、久遠は思い出す。冬和が、恋人が会いに来たと言っていたことを。

「彼女になにかしたら絶対に許さない」
 厳しい声に、未波は顔をゆがめる。その目に浮かぶ粒は、すぐに頬にこぼれた。

「そんなに好きなの?」
「だったらなんだよ!」
「それでもここにいたらいいじゃない。結婚するわけじゃないんでしょ」
「それじゃダメなんだ」

 きっと、彼女はそんな自分を認めてくれない。
 一人できちんとしないと、あの人の前にはいられない。

「その人にふられたら、ここに戻って来てくれる?」
「もう戻らない」
 未波が息を呑んだ。そのまま久遠の部屋を出て行く。

 久遠はため息をついた。
 もうとっくにふられている。
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