別れさせ屋は恋愛不信な彼女との運命の愛を離さない
 笑うところなのか。
 冬和は呆然と彼を見つめた。
 目が合うと、彼はまたにやりと笑った。
 気配に気が付いた女が立ち上がり、冬和を睨む。

「なに見てるの!」
 冬和は慌てて目をそらした。
「落ち着いて」
 男も立ち上がり、女に寄って抱きしめる。

「そういう運命だったんだ。仕方がないよ」
 女は、だけど、でも、とぐずぐずと泣く。
 帰ろう。冬和は本とスマホをバッグにしまう。浩之と鉢合わせたほうがまだマシだ。

「だんなと別れたら毎日でも会えるって言ったくせに! こんなんだったら離婚しなかったわ!」
 女はまた彼を非難し、わあわあと泣く。
「お客様、ほかのお客様のご迷惑になりますので」
 若い女性店員がおずおずと女に声をかける。
「なによ!」
 女は手を振り上げた。

 危ない!
 気が付くと冬和は飛び出していた。

 パン! と良い音が響いた。
 店員のかわりに冬和が頬を殴られていた。

「なんで邪魔するの! みんなして私のことばかにして!」
 女は泣き崩れて床に座り込んだ。

 周囲はあっけにとられて彼女らを見ている。
 冬和はため息をついた。
 伝票を持ってレジへ向かう。
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