別れさせ屋は恋愛不信な彼女との運命の愛を離さない
 今さら一人の男になろうとしても、彼女の心には入り込めない。
 そうだとしても、今までと同じ生き方をしたいとは思えなくなっていた。

「行かないで」
 未波の声がして、ふりむいた。
 彼女は包丁を久遠に向けていた。その手は小刻みに震えている。

「誰のものにもならないで。あなたは誰かのものになっちゃダメなの」
「なんだよそれ」

「あなたは誰かとつきあっているときでも、誰のものでもなかった」
「いつだってオレはオレのものだ」

「今度は違うのよね。出て行くなら……刺すから」
 久遠は不快に目を細めた。
「オレが自分の命を惜しんで生きてるように見えた?」
 未波の顔に絶望が広がった。

「わかった」
 未波は包丁を振り上げた。
 久遠ははっとして、とっさに腕を伸ばした。

***

 冬和はまた課長に呼び出された。
「異動の話、誤解があるかもしれないと思って」
 冬和は黙って続きを待った。

「決して左遷の意味じゃない。人が足りない部署から、優秀な人がいないかって聞かれた。だから君を推薦したかったんだけど、いいかな?」

「お願いします」
 冬和は答えた。
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