別れさせ屋は恋愛不信な彼女との運命の愛を離さない
 いっそ本当に感情などなくなってしまえばいいのに。
 そうしたら泣かなくていいし、傷付かなくてすむ。
 冬和は空を見上げた。
 陽の沈んだ空は、藍を深くして残照を追いやろうとしていた。



 再び久遠が現れたのは翌週のことだった。
 いつものように会社の前で待ち伏せていて、顔を見た瞬間、にこっと笑った。
 冬和の胸が熱くなる。だが、彼の腕に巻かれた白い包帯だけを見て無表情を心がけた。

「この前はごめん。父が、オレを刺したのがあなただと勘違いしててさ」
「そうなの」
「ちゃんと説明した。刺した人とも話し合いをして決着をつけてきた」
「関係ないから大丈夫」
 冬和が立ち去ろうとすると、久遠が前を塞いだ。

「あのとき、来てくれてうれしかった」
 冬和は答えない。
 久遠もまた言葉なく冬和を見つめる。

 夏の夕暮れが二人を包む。湿気を帯びた空気がからみつき、昼と夜が戦うような赤い光が西にある。

「私、アメリカへ行くの」
「旅行?」
「転勤。今日、正式に打診があって了承したの。だからもう会えない」
「待ってよ、遠距離だってオレはかまわないし!」
「私がかまうの」

 冬和はにこっと笑った。
 悲し気な久遠の頬に手を伸ばす。
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