別れさせ屋は恋愛不信な彼女との運命の愛を離さない
 さんざんな日だ。
 頬がずきずきと痛んだ。

 この喫茶店は女性がふられるのによく使われるのかな。
 ……そんなわけないか。
 ここに来るようになって一年、こんなことは初めてだ。

 もう来られないなあ。気に入ってたのに。
 何度目かわからないため息をついて会計をすませ、冬和は店を出た。

***

「見ず知らずの人をかばって殴られるってどういう心理?」
 狭い事務所の中で、御園久遠(みそのくおん)はたずねる。社長——鞍間麗美(くらまれみ)はパソコンを打つ美しい手を止めて、彼を見た。

 彼は応接セットのソファに力なく斜めに体をあずけていた。デスクの麗美からははみだした茶髪の後頭部しか見えない。

 窓の外は真っ暗で、時計は十一時を指そうとしていた。
「どういうこと?」
「仕事中、そういう場面に遭遇した」
 久遠は振り返った。
 ぱっちりした目に疑問を浮かべている。その目に映る麗美は四十を過ぎたとは思えない若々しさと美しさがあった。

「仕事? 別れさせ屋の?」
「依頼者から離婚成立の報告が来たじゃん。だから女に別れ話をしてきたんだ。そしたらちょっとこじれちゃって。ちょっとだけね」
 麗美は無言で先を促す。
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