別れさせ屋は恋愛不信な彼女との運命の愛を離さない
 東京の都心部に行ったときもたいがいな人の多さに辟易したが、こちらも負けてない。だが、にぎやかな街にあふれるエネルギーはけた違いなように思える。

 まさかこんなところで働く日が来るなんて、思いもしなかった。


 
 夕方、仕事を終えてオフィスを出ると、まだ日が高かった。
 冷房に慣れた肌はすぐにじっとりと汗ばんだ。

 ニューヨークも湿度が高いんだな、と汗を拭いて思う。海外はすべて日本よりからっとしているイメージがあったから意外だった。

 高いビル群に囲まれて、不思議な気持ちになる。なにもかも、スケールが日本と違う。

 そう思って周囲を見た目が、ありえない人物の姿をとらえた。

「久しぶり、冬和さん」
 久遠だ。彼はいつものように甘く笑った。

「どうしてここに」
「会社も名前もわかってるんだから、あとは調べるの簡単」
 久遠はにこやかに言う。

「言ったよね、オレ、御曹司なの。お金はあるから、留学に来ちゃった」
「来ちゃったって」
 近所の友達の家に遊びに来たかのように言われても。準備期間も必要だろうに、すべてお金の力で解決できるのだろうか。

「驚いた?」
「当たり前じゃない」
 冬和が答えると、久遠は満足そうな笑みを浮かべた。

「冬和さん、ひどいよ、ホテルに置いてきぼりなんて。どれだけ寂しかったか、わかる?」
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