別れさせ屋は恋愛不信な彼女との運命の愛を離さない
 冬和の手を取り、挑むように彼女を見ながらその手にキスをする。
「それもダメ。今日は心の準備ができてないから」
 再会だけでもこれだけ驚いているのに、そんな展開、ついていけない。
「そんなの、秒で準備させてあげる」
 言って、彼は冬和の唇を奪う。
 冬和は慌てて彼から離れる。

「こんなところで!」
「誰も気にしてないよ」
 くすくすと彼は笑う。その目に色気を漂わせて。
「秒は無理だったかな。だけど、夜までに時間はあるから」

「恋なんて、いつか壊れるものなのに」
 思わずつぶやいていた。

「恋じゃない。ずっと壊れないから」
「じゃあ、なに」
「運命の愛」
「あなたが演出した運命、ね」
 冬和はくしゃくしゃの顔で苦笑した。なぜか涙がこぼれそうだった。

「本当の愛。オレの欲望、必需品。どんなに言葉で飾ってもあなたは納得しないでしょう?」
 久遠は息をふうっと吐いて、それから、冬和の目をまっすぐ見た。

「だから、結婚してほしい」
「学生のくせに」
「じゃ、卒業してから」
「私は情が薄いの。待てないわ」

「待ってるって感じさせないくらいに愛するから」
 そう言って、彼はまた口づける。
 あたたかくやわらかな彼の唇が触れて、冬和は目を閉じる。

 もはや街並みは見えず、喧騒が遠のき、体は熱を帯びる。

 冬和は思う。
 きっと私は待ってしまうだろう。
 そうして、そのときにはきっと。
 きっと――。



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