別れさせ屋は恋愛不信な彼女との運命の愛を離さない
「女が怒って、止めに入った店員を殴ろうとしたら、隣の席の女性がかばって殴られてた」
「まあ」
「言っておくけど止めようとしたよ。でも間に合わなかった」

 麗美は彼をしげしげと見た。
 相手に悪いとはかけらも思っていなさそうだった。今日きれいな石ころを見たよ。それと同じくらいのトーンだった。

「あなたには理解できないかもしれないわね」
「うん。赤の他人のために痛い思いなんてしたくない」
「お礼は言ったの?」
「言う前に帰っちゃった」
「きちんとお礼かお詫びか、するべきだったわね」
 麗美に言われ、久遠は口を尖らせる。

「そんな時間なかったもん」
「そう」
 責めるでもなく、麗美は答えた。

「ところで、卒業後のことは決めたの?」
「まだ。就職したくないし、やりたいこともないし。このまま雇ってくれる?」
「人に自慢できる仕事じゃないわよ」
「オレには合ってるから」
 ソファにだらしなく座りなおし、彼は応じる。

「私は助かるんだけどね」
 麗美はまたパソコンの作業に戻る。
 静かな室内に、麗美のタイピングの音だけが響いた。
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