別れさせ屋は恋愛不信な彼女との運命の愛を離さない
 麗美は別れさせ屋の社長だ。その名の通り、依頼を受けてターゲットの男女を別れさせるのが仕事だ。

 業種としては探偵業だ。別れさせる相手を知るために尾行や張り込みなどの素行調査を行うため、公安委員会にその登録をしている。

 久遠は従業員の一人だ。学生だからバイトとしてやっている。
 今回は不倫相手と再婚したい男からの依頼だった。

 それで久遠が偽名を使って妻に近付いた。
 妻はあっさり彼に溺れた。
 彼が女性に与えるのは偽物の溺愛。だが、女性はすぐに溺れていく。

 結婚を匂わせると、彼女はすぐに夫と別れると宣言した。
 離婚成立後は、不倫がバレて慰謝料請求されたと別れるのがいつものパターンだった。

 責められたり縋られたりすることは過去にもあった。が、店員に八つ当たりで殴ろうとする人は初めてだった。
 彼には理解できない。なんでそんなに必死になるのか。

「めんどくさ」
 久遠はため息とともに呟いた。

 現在の棲家に帰ると、滝沢未波(たきざわみなみ)が寝ずに待っていた。
 彼女は久遠より三つ年上、二十五歳だ。有名企業で働いて余裕があるらしく、広いマンションを借りて住んでいる。その一室に久遠は間借りしていた。とはいえ家賃も光熱費も払ってはいない。

「おかえり」
「待たなくていいって言ったよね」
 久遠は腹立たしい気持ちをおさえて答える。
「たまたまよ。ごはん作ったの、食べる?」
「そういうのもやめてって言ったよね」
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