別れさせ屋は恋愛不信な彼女との運命の愛を離さない
 彼女が作ったご飯を食べたのは住み始めた翌日の一回だけだ。勝手に作られ、仕方なく食べた。あとはすべて断っている。
 最初からただのルームシェア……というより彼は居候だった。
 前の彼女に部屋を追い出されたと話したら、うちに来たら、と未波が誘ってくれたのだ。

 男として求められたら出て行くよ、と久遠は言った。
 求めないわ、と未波は言った。
 だから来たのだが、実際は違ったようだった。

 確かに彼自身を求めることはないが、なにかと世話を焼こうとする。それがじめじめと重い。
 潮時だな。次を探さないと。
 久遠は自室に戻る未波の背を冷たく見据えた。

***

 浩之と別れてから一週間、冬和は出社が苦痛だった。
 職場ではひそひそされて、杏奈は大っぴらに浩之に甘える。
 周りに気を使わせないように無表情を装うが、内心は穏やかではいられない。

 冬和と杏奈は営業事務だ。
 浩之たち営業のとってきた案件の見積もりを出したり契約書を作ったり、海外支社に送るデータを用意したり。
「百合宮さん、ちょっといいですか?」
 杏奈に聞かれて、冬和は無表情で彼女を見た。

「メールが来たんですけど、なんて書いてあるのかわからなくて」
 言われて、杏奈のデスクまで見に行く。と、ニューヨーク支社からの英文のメールだった。

「先日依頼したデータをなるべく早く送ってって」
「そうだったんですか」
 言って、杏奈は椅子に座る。
 礼もないのか、と思ったものの、冬和は不快さを出さないように無表情を心がけた。
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