夜の魔王と呼ばれる男、実は過保護で激甘でした

女は度胸

女は度胸…大丈夫。

絶対、仇をとってやるんだから。

由亜は1人拳を握りしめ、キラキラと輝くアーケードの一歩手前で足を止める。

両手は小刻みに震え、心臓は先程からあり得ないくらいにバクバクと時を刻んでいた。


ここは日本一の歓楽街、眠らない街、不夜城…

本当に、昼か夜か分からないくらいの明るさで、ネオンが煌びやかに輝いている。

まさか私がここに来る事があるなんて、夢にも思っていなかった…。

佐野 由亜(25歳)
都内の短大を卒業後、ごく普通の商社に就職。
どこにでもいる地味な会社員だ。
身長も控えめの158センチ。誇れるポイントもないほど平凡な顔立ちに、黒縁メガネ。

1度も染めた事のない黒髪は肩下までのストレートで、仕事中は後ろに一つでまとめている。
それが普段の由亜だった。

今までの人生、ずっと目立たぬようにひっそりと生きてきた。

小心者で控えめで、誰かを恨む事なんて無縁の世界で生きて来た筈の彼女が、今、この地に足を踏み入れる。

ストレートな黒髪は、つい先ほど人生初のカラーリングを終え、今はゆるふわに巻き上げている。
初めて買ったタイトな黒のドレスは、胸元まで大胆に開いたもので、足元はこれまた初めて履いた黒のピンヒール。

全てのコーディネートはショップで働く学生時代の友達が施してくれた。

髪を整えメイクを終えた自分を見た時、まるで別人だと思うほどの違和感を感じた。

大丈夫かしら…
まるで仮装しているような、不慣れ感を醸し出している自分を、この街は受け入れてくれるだろうか…。

由亜は一歩一歩、ゆっくりと歩み出す。
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