夜の魔王と呼ばれる男、実は過保護で激甘でした
その日から由亜は、引き継ぎの為に毎日通った。

そして1ヶ月、経理士に相談しながらも、売上金から給料明細、ありとあらゆる請求書まで、週3で来るバイトのおじさんに手伝って貰いながら、なんとかこなす事が出来た。

「おめでとう。由亜ちゃん、本採用決定よ。」

雅美ママが笑顔で拍手を送ってくれる。

「ありがとうございます。」
由亜はホッと一安心する。

「貴女が働き易いように、やり方も臨機応変に変えてくれて良いからね。もし、こうした方がって思う事があったら気軽に言ってね。オーナーはああ見えて、意外と融通の効く人だから心配しなくても大丈夫よ。」

雅美ママのオーナーへのリスペクトは半端ない。
もしかして、魔王の愛人?密かに由亜はそう思っている今日この頃だ。


1カ月も経てば、店のキャスト達とも顔見知りになり、前借りや経費で落ちる明細書など、仕事の事意外でもちょこちょこ話す事が増えていった。
すると、知らずのうちにいろいろな店の情報を耳にする。

1番話題が多いのは、裏で魔王と呼ばれるオーナー真壁の事。

1日で1000万を売り上げた話や、客同士の嫉妬によるトラブル、他店との客の奪い合いの話や、中でも愛人、セフレ関係の噂がよく飛び交っていた。

沢山の世の男性を手玉に取るキャスト達でさえ、魔王はそれだけ魅力的な男だと言う事。そして誰も笑った顔を見た事がないという事。

いつだってみんなの話題の中心でありながら、プライベートは謎めいていて、どこに住んでいるのかさえも誰も知らないらしい。

始めのうちは、いつ京香の事を話そうかと、魔王である真壁の様子を伺っていたが、仕事を覚える事で精一杯で、敵討ちについてはまだ何も始まってはいなかった。

この1ヶ月、真壁との接点といえば、週3回ほど事務室にやって来て、由亜の仕事振りを監視しながらコーヒーを飲む事ぐらいだった。

「お疲れ様。今日は遅かったね。残業?」

「お疲れ様です。そうなんです、月初は給料明細で忙しくて。」
エレベーターボーイの純君とは、早い段階で顔見知りになり、今ではこの店の男性の中で1番の仲良しになった。

降りて来たエレベーターに急いで乗り込む。『また後で。』と純君とお互い手を振って分かれる。

今日は本職が残業だった為、こちらの出勤が遅れてしまった。
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