夜の魔王と呼ばれる男、実は過保護で激甘でした
まだ真壁は居ない…。
少し向こうの席では、羽振の良いお客様がいるようで2、3人のホストに囲まれ、何やら盛り上がっているけれど…。

「ねぇねぇ。京ちゃん、占いは興味ないの?
じゃあさ、一緒にゲームでもやる?ポッキーゲーム!
端と端をお互い食べ進めて、どっちが先に折っちゃうかっていう度胸試し。」
ニコニコと一樹は由亜の手を握り、言って来るけど…。

想像しただけで身震いするから、丁寧にそれはお断りする。

「じゃあさ、京ちゃんは何しに来たのさ。男と楽しく飲みたくて来たんじゃないの?」
一樹が、急に核心について来る。

「えっと…、社会見学と言うか…。
私、男性が苦手でして…ここにこれば少しは克服できるかもと思って…。」
苦し紛れに、どうでもいい言い訳を並べ立てる。

「マジで!じゃあ俺がベタベタ触るの嫌だったよね。」
一樹はパッと由亜の手を離し、ごめんねと誤って来る。ノリは軽いけど…根は良い子だ。と、由亜はほんの少しホッとした。

「じゃあ。今日は京ちゃんの人生相談を聞く会にしよう。何でも聞くし、オレで良かったらアドバイスするよ。」
そこまで克服したいと思ってる事では無いけれど…仕方なく、これまでの自分の生い立ちを軽く話す。

「京ちゃんはただ、男慣れしてないだけなんだよ。男が未知な生き物だと思っているから、怖くて近寄れないだけなんだ。
大丈夫。京ちゃん充分可愛いし、京ちゃんが心を開けば直ぐに彼氏だって出来るよ。」
一樹の人生相談は、的をついているようでそうでも無い、という微妙なところを突いてくる。

彼氏は別に欲しいとは思わない…。

誰か異性に心惹かれた事もなければ、気になる存在なんか…そう頭の中で回想すれば、浮かんで来るのはなぜか、真壁の笑い顔…。

なんでオーナーなんて…自分でびっくりして、慌てて首を振って意識的に頭から追い出す。

「誰か…気になる人がいるんだね。
誰、だれ?絶対誰にも言わないから教えてよ。」
急に距離を縮めて来た一樹は、由亜の肩を引き寄せヒソヒソと耳元で話して来る。

これもホストの接待の一つだろうか…。
疑似恋愛を楽しむ場だと、京ちゃんが言っていたのを思い出す。さすがにドキンとして、由亜はしばし固まってしまう。

そのタイミングで店内が、にわかに騒つき始める。各席から感嘆の声が上がり、明らかにさっきまでとは違う空気…。

なぜだろうと目を凝らす。
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