夜の魔王と呼ばれる男、実は過保護で激甘でした
すると、さっき盛り上がっていた、向こうの席のホスト達が一斉に立ち上がって、誰かを迎える準備をしている。
あっ…真壁オーナーだ。
彼を認識した途端、由亜の心拍は否応なしに急上昇する。
他とは格が違うとばかりにオーラを醸し出し、指名席に向かう彼は、やはりNo.1ホストと言う風貌で、彼が通る道は途端に舞台の花道のように、キャーキャーと他の席の客からも囃し立てられている。
だけどそれには目もくれず、1人の指名客の横に座るから、多分今…彼女は優越感に浸っている事だろう。
それだけの対価を払うのだから、きっと触れる事も甘える事も許されて…ここにいる間は、彼を独り占め出来る。
真壁オーナーは…いや、No.1ホストの翔魔(しょうま)はやはり高嶺の花だった?
遠目で翔魔の愛想笑いを見つめながら、由亜は1人ため息を吐く。
人には愛想笑いするなって言っていたくせに…。
なんだかよく分からないイライラを感じながら、それでも彼から目が離せずに、その一喜一憂を見つめてしまっていた。
普段の笑い顔を知っているからか、今の彼の愛想笑いは滑稽に見えてしまう。心が泣いているとまで思ってしまうのは何故だろう…。
「もしかして…京ちゃんも、翔魔さん目当て?」
何を察したのかそっち方面に感が冴えるという、隣にいる一樹が、由亜の肩を寄せたままの体制で話しかけて来る。
「いえ、一度見てみたいと思っただけで…私には高嶺の花過ぎますから。」
そう言いながらもつい翔魔を目で追ってしまう。
女性客は高揚して、彼の肩にもたれ掛かりその腕に抱きついて離れない。その束の間の優越感が彼女の全てなんだろう。
なぜかそう思うと彼女が京香と重なって見える。
彼女は今、姫にでもなった気分で、修魔を傅(かしず)かせ独り占めしている。
注文しておいた果物を彼に食べさせてもらう姿を垣間見て、なぜだか分からないけど、由亜の心がチクリと痛む。
見ていられない…。
普段と違う表の顔で、客に最大限の接客をしている彼は、まさにホストの鏡のようで、普段の太々しい態度とは真逆に見えて、由亜から見たら違和感でしかなかった。
「ねぇ。京ちゃん、魔王はお高くつくよ。初心者の京ちゃんには言っちゃなんだけど、俺くらいが丁度いいから。」
そう一樹に言われて由亜は苦笑いする。
本当にそうだ…何を勘違いしていたんだろう。
敵討ちなんて出来やしないに決まってる。彼とは格が違うんだ。対等に話し合う事なんて出来る訳がない。
そう思うとなぜだか涙が溢れ出る。
「うわっ!急にどうしたの⁉︎」
慌てたのは隣に座る一樹で…
バタバタとティッシュBoxを探しに席を立ち、またバタバタと慌てふためき帰って来て、ティッシュを一杯出して、由亜の涙を拭いてくれる。
「ごめんなさい…。」
由亜はそれだけ言うのが精一杯で、しばらく声も無く俯き、涙を止めなければと焦る。
「キャストの涙は御法度なんだ。京ちゃんが泣くと俺が減給させられる。」
一樹の慌て振りはそういう事かと、頭の片隅で納得しながら、自分の中の嵐が早く過ぎ去るのを、由亜自身も待つしかなかった。
あっ…真壁オーナーだ。
彼を認識した途端、由亜の心拍は否応なしに急上昇する。
他とは格が違うとばかりにオーラを醸し出し、指名席に向かう彼は、やはりNo.1ホストと言う風貌で、彼が通る道は途端に舞台の花道のように、キャーキャーと他の席の客からも囃し立てられている。
だけどそれには目もくれず、1人の指名客の横に座るから、多分今…彼女は優越感に浸っている事だろう。
それだけの対価を払うのだから、きっと触れる事も甘える事も許されて…ここにいる間は、彼を独り占め出来る。
真壁オーナーは…いや、No.1ホストの翔魔(しょうま)はやはり高嶺の花だった?
遠目で翔魔の愛想笑いを見つめながら、由亜は1人ため息を吐く。
人には愛想笑いするなって言っていたくせに…。
なんだかよく分からないイライラを感じながら、それでも彼から目が離せずに、その一喜一憂を見つめてしまっていた。
普段の笑い顔を知っているからか、今の彼の愛想笑いは滑稽に見えてしまう。心が泣いているとまで思ってしまうのは何故だろう…。
「もしかして…京ちゃんも、翔魔さん目当て?」
何を察したのかそっち方面に感が冴えるという、隣にいる一樹が、由亜の肩を寄せたままの体制で話しかけて来る。
「いえ、一度見てみたいと思っただけで…私には高嶺の花過ぎますから。」
そう言いながらもつい翔魔を目で追ってしまう。
女性客は高揚して、彼の肩にもたれ掛かりその腕に抱きついて離れない。その束の間の優越感が彼女の全てなんだろう。
なぜかそう思うと彼女が京香と重なって見える。
彼女は今、姫にでもなった気分で、修魔を傅(かしず)かせ独り占めしている。
注文しておいた果物を彼に食べさせてもらう姿を垣間見て、なぜだか分からないけど、由亜の心がチクリと痛む。
見ていられない…。
普段と違う表の顔で、客に最大限の接客をしている彼は、まさにホストの鏡のようで、普段の太々しい態度とは真逆に見えて、由亜から見たら違和感でしかなかった。
「ねぇ。京ちゃん、魔王はお高くつくよ。初心者の京ちゃんには言っちゃなんだけど、俺くらいが丁度いいから。」
そう一樹に言われて由亜は苦笑いする。
本当にそうだ…何を勘違いしていたんだろう。
敵討ちなんて出来やしないに決まってる。彼とは格が違うんだ。対等に話し合う事なんて出来る訳がない。
そう思うとなぜだか涙が溢れ出る。
「うわっ!急にどうしたの⁉︎」
慌てたのは隣に座る一樹で…
バタバタとティッシュBoxを探しに席を立ち、またバタバタと慌てふためき帰って来て、ティッシュを一杯出して、由亜の涙を拭いてくれる。
「ごめんなさい…。」
由亜はそれだけ言うのが精一杯で、しばらく声も無く俯き、涙を止めなければと焦る。
「キャストの涙は御法度なんだ。京ちゃんが泣くと俺が減給させられる。」
一樹の慌て振りはそういう事かと、頭の片隅で納得しながら、自分の中の嵐が早く過ぎ去るのを、由亜自身も待つしかなかった。