夜の魔王と呼ばれる男、実は過保護で激甘でした
そんなタイミングで、

「…由亜…!?」
突然声をかけられて、驚きバッと顔を上げる。

と、そこには…片膝をついて由亜を覗き込んで来る翔魔が居る…。

「えっ!?」
瞬間、由亜は目を見開き固まる。

数秒、翔魔と見つめ合う。

驚いた顔の翔魔はパッと由亜の腕を掴み、強引に立ち上がらせたかと思うと、出入口へと引っ張られる。

えっ⁈えっ…⁉︎

事の状況がよく掴めないまま、翔魔に連れられ『staff only』のドアの向こうに…

「何やってんだよっ!」
個室に連れ込まれて、翔魔に…いや真壁に睨まれる。

怒ってる…怖いっと咄嗟に思うけど…掴まれた手首を振り払う事も出来ずに狼狽する。

「こんなとこに何しに来た⁉︎…バカか!」
真壁に罵声を浴びせるように咎められ、由亜は心が震え座り込みそうになる。
それを真壁が咄嗟に支え、近くにあるソファに下ろされる。

はぁーっと翔魔は大きなため息を吐き捨てる。

「ごめんなさい…。」
由亜は両手で顔を覆いシクシクと泣き始める。

そのタイミングで遠慮気味に、

トントントントン

と、ノックがして、一樹が顔を覗かせる。

「あ、あのぅ…。京ちゃんは…オレが泣かせた訳では…無くて。突然泣き出したので…介抱しただけです…。」

自分の無実を証明する為に意気込んで来た一樹だが、真壁の圧の前に尻込みしてしまう。

「こいつに触れたのか…?」
真壁は一樹を睨み付ける。

「えっと…正しい、接客をしただけです!」
と、一樹は焦って答える。

由亜は慌てて一樹の前に立ち塞がり、
「私が…私が勝手に…泣いた、だけで…一樹君は、何も、悪く無い…です。」
ヒックヒックと、嗚咽しながらも一生懸命否定する。

「…分かったから…お前は大人しく座ってろ。」
由亜を元の席に座らせ、一樹には、

「コイツの荷物持って来い。」
と、指示する。一樹は咎められない事を悟り、ホッとした表情で一礼して去って行った。

真壁とまた2人っきりになり、気まずい空気が流れる…

「お前…男嫌いだろが、なんでこんなとこに来た?」
電圧を少し落とした真壁が、目の前のソファにどかっと座り、腕を組んで由亜を見てくる。

「なんで…?嫌いでは…苦手、なだけで…。
社会見学に…接客業に興味が…」
苦し紛れな嘘を付く。

「お前に接客は向いてない…大人しく事務職してればいい。」
バサっとショートヘアのウィッグを取り上げられる。

「変装してたって分かるんだよ…。いいな、2度と来るな。お前は出禁だ。」
そう言われる。
 
驚きで止まりつつある涙を拭いて…
プライベートで来てるのに…なんで?なぜ、こんなにも怒られなければいけないのだろう…。

ここに来て、やっと冷静になっていく頭でふと思う。

「あの…お言葉ですが…。今はプライベートです。オーナーだからって、そこまで言う権利は無いと…思います…。」
由亜は真っ赤な目で真壁を睨み返し、一生懸命威嚇する。
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