夜の魔王と呼ばれる男、実は過保護で激甘でした
次の日、私は心を無にして夜の仕事へと向かう。
いつの間にか通い慣れたこの場所は、もう半年ほど経っていた。
辞めるなら今のうちだ…。
これ以上、心に入り込まれないうちに…。
この場からお別れをしなければ、ミイラ取りがミイラになる前に…。
そう思いながら、私がいつも通りPCに向かい仕事をしていると、ガチャっと事務室のドアが音沙汰もなく不意に開く。
「お疲れ。」
と、いつも通りにオーナーが入って来る。
昨日の事に触れられないようにと、内心ハラハラしながら、それでも仕事の手を止めずにPCに向かい、
「お疲れ様です。」
と、冷静を装って声だけで返事をする。
「ちゃんと来たな。」
真壁は偉い偉いというように、私の頭をポンポンしながら、気にする事なく隣の椅子にどかっと座る。
だけど特に話す事など無く、しばらくじっとこちらを見てくるから、私は居づらさを感じてしまう。
「あの…これ。」
意を決したように、私はおもむろに机の引き出しに閉まって置いた、1通の封筒を取り出し、オーナーの前の机に置く。
『退職届』
1番分かりやすい意思表示だと、昨夜遅く思い悩み、そして思い立ち書いたものだ。
それを真壁は一瞥して、
「…想定内だ。」
と一言いう。
「由亜の考えは手に取るように分かる。これはとりあえず預かっておく。俺の事を見向きもせずに逃げるのは、いささか卑怯じゃ無いか?」
ごもっともだと思うけれど、
「オーナーは…そうやって…何人の女性を騙したんですか?」
震える声で、俯きながらそう伝える。
「なるほど…。
ホストなんてやってると、信用を得るのも大変だな。俺の言葉に嘘偽りは無い。こう言っちゃなんだが、俺から気持ちを伝えたのは、お前が初めてだ。」
椅子をくるっと回転させられ、向かい合って両手を握られる。長い足で私の足を囲って来るから、立ち上がり逃げる事も許されない。
仕方なく、私は俯く頭を恐々上げて真壁と向かい合う事になる。
思ったよりも顔が近くて心がドキッと踊り出す。
「俺が嘘をついてお前を騙しているとでも?
由亜を騙して何にを得る?悪いが金も名誉も持ってるつもりだ。誰に入れ知恵されたか知らないが、俺が今1番欲しいと思うのは、他でもなく由亜の心だけだ。」
見つめ合って数秒、時が止まる。
「…なんで貴方みたいな…なんでも持ってる人が…私なんか…。」
「私なんかなんて言うな。由亜は今まで俺が見てきた女の中で1番綺麗だ。
何より心が澄んでいる。それなのにやたらと自己評価が低過ぎて、ずっと歯がゆい思いをしていた。
もっと自信を持ってと言いたいとこだが、俺以外の奴が由亜の魅力に気付くのは怖い。だから、そのままでいい。」
何を…?
何を言っちゃってるんだろうこの人は…熱でもあるんじゃないの!?
私は両手を握られて、真っ赤になった顔を隠す事も出来すに俯く。
「俺の憶測だけど…。お前が昨夜名乗ってた京ちゃんって名前…佐野京香か?」
えっ!?と驚きバッと顔を上げる。
オーナーはやっぱりな。と、言う顔で由亜を見て、ふぅーと一つため息を落とす。
「なぜ由亜みたいな真っ当な奴が、こんなところに来たのかやっと繋がった。」
フッと笑いながら言う、彼の顔から目を背ける事が出来ない。
「京香から、俺に捨てられたとでも教え込まれて来たか?それとも、金を取るだけ搾り取られたとでも?」
呼吸も上手く出来ないほど、脈が乱れる。
「俺の話を聞いて信じるか、信じないかはお前が決めればいい。」
そう言ってオーナー静かに話し出した。
「京香が俺のところに来たのは、多分5年ほど前のことだ。始めは週に1回来る程度だったが、段々と回数も増えて来て、2年経った頃には週3回になっていた。
毎回羽振がよくなって、ただの会社員には払える金額では無くなっていったから、心配はしていたんだ。
噂で身体を売っていると聞いて、そこまでして来て欲しくは無いと告げて、もう来るなと出禁にしたんだ。」
いつの間にか通い慣れたこの場所は、もう半年ほど経っていた。
辞めるなら今のうちだ…。
これ以上、心に入り込まれないうちに…。
この場からお別れをしなければ、ミイラ取りがミイラになる前に…。
そう思いながら、私がいつも通りPCに向かい仕事をしていると、ガチャっと事務室のドアが音沙汰もなく不意に開く。
「お疲れ。」
と、いつも通りにオーナーが入って来る。
昨日の事に触れられないようにと、内心ハラハラしながら、それでも仕事の手を止めずにPCに向かい、
「お疲れ様です。」
と、冷静を装って声だけで返事をする。
「ちゃんと来たな。」
真壁は偉い偉いというように、私の頭をポンポンしながら、気にする事なく隣の椅子にどかっと座る。
だけど特に話す事など無く、しばらくじっとこちらを見てくるから、私は居づらさを感じてしまう。
「あの…これ。」
意を決したように、私はおもむろに机の引き出しに閉まって置いた、1通の封筒を取り出し、オーナーの前の机に置く。
『退職届』
1番分かりやすい意思表示だと、昨夜遅く思い悩み、そして思い立ち書いたものだ。
それを真壁は一瞥して、
「…想定内だ。」
と一言いう。
「由亜の考えは手に取るように分かる。これはとりあえず預かっておく。俺の事を見向きもせずに逃げるのは、いささか卑怯じゃ無いか?」
ごもっともだと思うけれど、
「オーナーは…そうやって…何人の女性を騙したんですか?」
震える声で、俯きながらそう伝える。
「なるほど…。
ホストなんてやってると、信用を得るのも大変だな。俺の言葉に嘘偽りは無い。こう言っちゃなんだが、俺から気持ちを伝えたのは、お前が初めてだ。」
椅子をくるっと回転させられ、向かい合って両手を握られる。長い足で私の足を囲って来るから、立ち上がり逃げる事も許されない。
仕方なく、私は俯く頭を恐々上げて真壁と向かい合う事になる。
思ったよりも顔が近くて心がドキッと踊り出す。
「俺が嘘をついてお前を騙しているとでも?
由亜を騙して何にを得る?悪いが金も名誉も持ってるつもりだ。誰に入れ知恵されたか知らないが、俺が今1番欲しいと思うのは、他でもなく由亜の心だけだ。」
見つめ合って数秒、時が止まる。
「…なんで貴方みたいな…なんでも持ってる人が…私なんか…。」
「私なんかなんて言うな。由亜は今まで俺が見てきた女の中で1番綺麗だ。
何より心が澄んでいる。それなのにやたらと自己評価が低過ぎて、ずっと歯がゆい思いをしていた。
もっと自信を持ってと言いたいとこだが、俺以外の奴が由亜の魅力に気付くのは怖い。だから、そのままでいい。」
何を…?
何を言っちゃってるんだろうこの人は…熱でもあるんじゃないの!?
私は両手を握られて、真っ赤になった顔を隠す事も出来すに俯く。
「俺の憶測だけど…。お前が昨夜名乗ってた京ちゃんって名前…佐野京香か?」
えっ!?と驚きバッと顔を上げる。
オーナーはやっぱりな。と、言う顔で由亜を見て、ふぅーと一つため息を落とす。
「なぜ由亜みたいな真っ当な奴が、こんなところに来たのかやっと繋がった。」
フッと笑いながら言う、彼の顔から目を背ける事が出来ない。
「京香から、俺に捨てられたとでも教え込まれて来たか?それとも、金を取るだけ搾り取られたとでも?」
呼吸も上手く出来ないほど、脈が乱れる。
「俺の話を聞いて信じるか、信じないかはお前が決めればいい。」
そう言ってオーナー静かに話し出した。
「京香が俺のところに来たのは、多分5年ほど前のことだ。始めは週に1回来る程度だったが、段々と回数も増えて来て、2年経った頃には週3回になっていた。
毎回羽振がよくなって、ただの会社員には払える金額では無くなっていったから、心配はしていたんだ。
噂で身体を売っていると聞いて、そこまでして来て欲しくは無いと告げて、もう来るなと出禁にしたんだ。」