夜の魔王と呼ばれる男、実は過保護で激甘でした

初めてのお泊まり?

朝が来て、由亜は遠くでスマホのアラームが鳴る音を聞く。

なんら変わらないいつもの朝だと思い、眠い頭を無理矢理上げて手探りでスマホを探す。

それよりも先に誰かがアラームを止めるから…
「…京ちゃん…ありがとう…。」
と、無意識にお礼を言う。

「悪いが由亜…俺だ。今、7時だけど仕事大丈夫か?」

「えっ…ええええっ!?」
その声に驚き、由亜はガバッとベッドから飛び起きて、辺りをキョロキョロと見渡す。

ここは何処!?
私は何故ここにいるの⁉︎
頭を抱えてしばらくパニック状態だ。

「ここは俺の家だ。昨夜、泣き疲れて寝てしまったから、起こすのも忍びなくて連れ帰ったんだ。」

落ち着いたトーンの声で話す真壁を、由亜は凝視して少し心を落ち着けたかのように見えるが…

「それは…大変なご迷惑を…おかけしました。」
ベットの上でちょこんと正座して、急いで乱れた髪を手櫛で整え、ペコリと頭を下げて詫びてくる。
そんな仕草も可愛いいと、真壁は目を細める。

「いや、泣かせたのは俺だ。俺のせいで由亜と京香の人生を狂わせた。申し訳ない事をしたと思っている。
だから、俺の人生をかけて償わせてくれないだろうか。」
深く頭を下げてそう言う真壁を見つめて、由亜はあたふたする。

「あの…私…思ったんですけど、よくよく考えると…
翔さんはただ…誠実に、仕事をしてただけで…悪くないと思います…。」

「由亜…お前の信念をここまで来て簡単に覆す(くつがえす)のか?」
急接近した真壁が由亜の頬を両手で押さえ、強制的に目を合わせられる。

嘘偽りない真剣な眼差しは、この一夜の間に何を変えたのかとお互い見つめ合う。

「この仕事にはこういうトラブルは付きものなんだ。小なり大なり他人の心をある意味支配するんだから、割り切ってその場限りと付き合える人の方が少ない筈だ。
俺はお前に会ってそう思うようになった。だから、京香には誠実に向き合いたいし、償いたいと思っている。」

「あっ……。京ちゃん!」
パッと由亜の頭に京香顔が浮かび上がる。昨日きっと心配して電話をくれた筈だと、慌てふためき真壁の手を振り払い、由亜は急いでスマホを開こうとする。

その手をギュッと真壁に握られ、えっ!?と思い、彼を見る。

「昨夜、由亜のスマホが鳴ったから、俺が出て由亜を預かると伝えてあるから大丈夫だ。」

「それ…本当に大丈夫ですか?
…なんだか人質を捉えた犯人みたいに聞こえますけど…。」
由亜は怪訝な顔で首を傾げるから、真壁は思わずフッと笑う。

「お前のその、突拍子のない発想力…気が抜けるんだが…。」
今度は由亜の頬にそっと触れて、そう言って真壁が笑う。

「その時に改めて詫びがしたいと話しをしたら、今度、京香と会う事になった。どんな形にしろ、自分の犯した罪と向き合って、これから誠心誠意償っていきたい。」

真壁の真剣な眼差しに、本気を感じ戸惑いながら
目を合わせて数秒見つめ合う。

「オーナーだけが悪者では無いと、今は思っています。だけど…京ちゃんの呪いが解けるなら、会って話し合う事は、大切な一歩だと思います。」
由亜がそう冷静な意見を言ってくるから、

「俺が今1番気掛かりなのは、由亜にかけられた京香の呪いが、解かれたのかどうかだ。俺を今でも仇だと少しでも思うか?」

真剣な眼差しの真壁を前にして、由亜は静かに首を横に振る。

「私は、京ちゃんの話だけを一方的に信じ、勝手に仇だと思わされていたんだと思います。
今までずっと…もしかしたら…いろんな事にも、知らないうちに京ちゃんに依存し過ぎていたんだと今、やっと目が覚めました。
オーナーを巻き込んでしまって…本当に申し訳ないと思います。」

そう話しながらも由亜の目には、どんどん涙が溜まっていくから、真壁は咄嗟に両手で由亜の頬を包みその涙をせき止める。

「もう、泣かなくていい。巻き込まれたのは由亜の方だ。これは、京香と俺の問題であって、由亜はこれっぽっちも関係ない。」

「私は…関係ない…?」
戸惑う由亜の揺れ動く瞳に、諭すように静かに語る。

「由亜は京香にある意味支配されていただけだ。
本当の心を取り戻したのなら、俺は何回でも何百回でも由亜に愛を注ぐ覚悟がある。
それほど俺は君が大事だ。愛しているんだと知っていて欲しい。」

「私が…大事…?どうして…私の事?」
由亜の思考回路はショート寸前だ。

「それは…これからおいおい伝えて行くつもりだ。
…とりあえず、時間大丈夫なのか?」
そっと微笑みを浮かべる真壁を、由亜は一瞬不思議そうな顔で見て、ハッと目を見開きスマホの時計に目を落とす。

「大変…もうこんな時間!
8時前には会社に行かないといけないんです。
あの…ここから家までどのくらいかかりますか?
着替えないと…。ああ、どうしよう…。」
突然我に帰って右往左往する由亜を見て、まるで小動物みたいだなと真壁は微笑む。

「落ち着け由亜、大丈夫だ。ここからの方が職場に近い。服を調達するから、由亜はとりあえずシャワーでも浴びて身支度を整えた方がいい。」

バタバタする由亜を捕まえ回れ右させて、風呂場へと押し入れる。

その後の真壁の行動は早かった。
マンションのコンシェルジュに連絡して、由亜の為に下着と服、化粧品一式、それに靴まで…。全てを電話一本で済ませ、由亜の為にと朝食を準備する。

< 29 / 81 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop