夜の魔王と呼ばれる男、実は過保護で激甘でした
いつもより10分早く会社に着く事が出来た由亜は、順調に仕事をこなし定時で終える事が出来た。

夕方『colors』までの道を歩いて向かう時、たまたま同伴をしている真壁を見かける。

昨夜の客の恍惚な笑顔と、真壁の愛想笑い…。
その途端、胸がズキズキと痛み出す。
こうなったのは私のせいなのだから仕方ないのだと、自分に言い聞かせ、『colors』までの道をひた走る。

事務室まで辿り着き息を整えながら、PCを立ち上げ仕事に入るが、真壁と腕を組んでいた女性の嬉しそうな顔が、頭からなかなか離れない。

どうしよう…私、オーナーの事が好きなのかも…。

仕事だと分かっているのに、客まで嫉妬してしまうなんて…。

そう自覚してしまうと、胸のドキドキが止まらなくなる。

そんな気持ちを抑え込みながら、必死で仕事をしていると、いつものように真壁が事務室にやって来る。

「…そっちの服に着替えて来たのか…。目のやり場に困るな…。」
独り言のようにポツリとそう言うから、由亜は思わず赤面する。

昨日お店に行った時に着ていた、黒のショートパンツに着替えて来たから、それを指摘されているのだ。

「足を冷やすな。」
と、膝掛けをどこかから持って来て掛けてくれる。
「あ、ありがとう、ございます。」

「帰りは俺が送って行くから、待ってろよ。」

「えっ?大丈夫ですよ、1人で帰れます。」
由亜は自分の気持ちを自覚してしまったせいが、さっきから上手く真壁を見れないでいる。

鼓動が高鳴りっぱなしだ。

「由亜?」
目線が合わない事が不満だったのか真壁は、隣の椅子に座ると同時に、由亜を椅子ごとクルッと動かし、容赦なく顔を覗いてくる。

「体調でも悪いのか?」
額に手を当てられた瞬間、真壁から女性物の香水の残り香を感じる。

嫌だ…他の誰かがこの人に触れたのだと思うと、嫌だと心が悲鳴をあげる。
どうしよう…こんなんじゃ…もう平気な顔して働けない。

「あの…すいません…気分が優れないので、今日は…。」

そう言った途端、膝掛けごとフワッと持ち上げられ、驚いて思わず真壁の首元に抱きついてしまう。
「ちょっ、ちょっとオーナー…下ろしてください。みんなに見られちゃう…。」

由亜はジタバタ抵抗するのに、真壁はびくともしない。

「気にするな、このまま送くらせてくれ。俺の仕事は終わったから大丈夫だ。」
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