夜の魔王と呼ばれる男、実は過保護で激甘でした

由亜の場合(由亜side)

(由亜side)

次の日、とりあえず、翔さんと午後1時に最寄りの駅で会う約束をした。

昨夜は結局いろいろ考えたけど、行きたい場所も買いたい物も特に無いから、そうメールを返したら『じゃあ、俺が勝手に決める。』と翔さんから返信があった。

これは…デートというものなんだろうか…。

出かける服を選びながら、やっとそういう思考に辿り着く。

何を着るべき?そう思うと、普段の服よりは良いものを…少しでも彼と釣り合う服をと思い、自分の服の中から落ち着いた大人っぽい物をと探してみたけれど…

結局、無難な白いハイネックのニットに、黒のロングのフレアスカートに落ち着く。上着には白のダッフルコートを来て、寒さ対策も万全だ。

駅に着いたのは待ち合わせ時刻の10分前、学生の頃にバイトをしていたコンビニの近くだ。
2年半ほど働いていたけど、京香の鬱病が悪化して、中途半端なタイミングで辞めてしまった。

店のオーナーには今でも良くしてもらっている。もし、夜の仕事が無くなっても、またこのコンビニに戻ってもいいかもしれない。漠然とそう考えながら真壁を待つ。

「由亜。」

その声に振り向くと、そこには紛れもなく翔さんがいた。
普段は夜の街でしか会った事がなかったから、明るい太陽の光の中にいる翔さんは不思議な感じがする。

いつもモノトーンのイメージだった服装も、クリーム色のニットにステンカラーの淡い空色のロングコートを着こなし、いつもと違う爽やか好青年な雰囲気に目を見張る。

翔さんも固まってるのは同じで、どうしたのだろうと思いながら、
「こんにちは…。」
と、頭を軽く下げて挨拶すると、

「クソ可愛いな…。」
となぜか照れたようにそっぽを向いて、私を車へとエスコートしてくれる。

助手席のドアを開けてくれるので、コートを脱いで乗り込むと、運転席から乗り込んで来た翔さんが、私を見つめて何か言いたそうな顔をする。

「どうか、しましたか?」
私が不思議そうな顔で聞くと、
「それがお前のいつもの服装なのか?」
と聞いてくる。

「何か…おかしいですか?」

「いや、いつもお前は変装してるみたいな格好だから…それが普通だって言うんだったら嬉しいなと思って。」

「嬉しい…?ですか?」
  
「一応私のクローゼットから選んできましたけど…。」

「伊達メガネは?」
「会社の人に見つかるといけないと思って…辞めてきたんです。」

「可愛い。」

「はい!?……褒めても何も出ませんよ…。」
突然の可愛い発言に、思わず真っ赤になってしまう。
この人と居ると心臓に悪い。

太陽の下だって、所構わず色気を振り撒いて来るからタチが悪い。
「率直な意見を言ったまでだ。」
出だしからドギマギする私を乗せて、車は動き出す。
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