夜の魔王と呼ばれる男、実は過保護で激甘でした
次の日は良い天気で、これぞドライブ日和だというくらい、まっさらな青空で空気も澄んでいる。

年甲斐もなく昼間のデートに浮かれた俺は、15分も早く待ち合わせ場所の駅に着く。送迎レーンで車を停め、由亜が来るのをしばらく待つ。

ワクワクとドキドキが入り混じった気持ちで、大人気ないなと自分に苦笑いする。

待ち合わせ時間10分前…

由亜らしい人影を見た気がして、車から飛び降りる。
昨日会ったばかりなのに、こんなに気持ちが早るのはなぜだろうか。

由亜に声をかけると、驚いた様にこちら見て来るが、驚いたのはこっちも同じだ。

今日の由亜は、変装めいた夜の街風な服装ではなく、メガネをかけた地味なOL風でも無い。

そこに居たのは、清楚なロングのスカートを履いた可愛いらしい由亜で…柄でも無く胸が高鳴なってしまう。

由亜を車に乗せて、いざ鎌倉へと出発する。

場所をここに決めたのはまったくの感だったが、由亜が思いがけず歴史好きだった事を知る。

鎌倉の仏像を前に懸命に、案内板を読んでいる姿が可愛いなと見守る。

写真を撮る観光客が多い中で、1人鎌倉幕府についての歴史を真剣な眼差しで辿る由亜は、俺から見たら新鮮で好感が持てた。

パンフレットを見てここに行きたい、あそこに行きたいと積極的に動き出す。

いろいろ歩いたが、疲れていないだろうかと心配になって来た時、丁度良くカフェが目に入りそこで一休みする事にした。

土産屋に併設した店内は混み合っていたが、席を待つ間も由亜が一緒ならば苦にはならない。

やっと席に通されると、目の前がガラス張りで鳥居と参道がよく見える場所だったから、由亜はその景色に感動して、メニューそっちのけで写真を撮り始める。

「翔さん、凄くないですか?鳥居がこんなに近くって。」
興奮気味にそう言って来るから、そうだなと相槌を打ちながら肩肘をついて、しばらくその可愛いい姿を堪能した。

「せっかくカフェに来たんだからそろそろ何か食べないか?」
笑いながら由亜に言う。

「あっ…すいません。忘れてました。」
やっと、メニューを開いてケーキを選ぶ。

「どうしよう。モンブランも美味しそうだし…ショートケーキも捨て難いです。」
優柔不断な感じがまた可愛いなと、いつまでも見ていたくなる。

「翔さんは何にしますか?」

「俺はコーヒーだけでいいが、ケーキで迷ってるなら2つ頼んで好きなだけ食べればいい。残ったら俺が貰うから。」

「そんな…贅沢な注文しちゃって良いんですか!?」
やたらと恐縮して、
「翔さんが食べたいケーキとかないですか?本当に良いんですか?」
とやたら食いついて来る。

「俺は普段から甘い物はあまり食べないから、由亜が好きなだけ食べればいい。」
と、半ば強引に注文する。

「鎌倉は気に入ったか?」

「はい。私、歴史が結構好きだった事を思い出しました。ずっと昔にこの地に生きていた歴史上の人物がいたんだなって思うと、なんだかロマンを感じませんか?」
目を輝かせて言って来るから、俺は微笑みながら、ここに連れて来て良かったと嬉しくなった。

「由亜が歴女だったとはまた新しい発見だな。次は浅草や歴史博物館なんかもいいかもな。」
そう言うと、

「そんなとんでもないです。翔さんの貴重な時間を使うなんて、今夜だって夜からお仕事ですよね?眠く無いですか?ちゃんと休まないと後で疲れちゃいますよ。少ししたら帰りましょ。」
やたらと俺の事を心配してくる。

「昨夜は3時には帰って寝てるから大丈夫だ。
それに、オーナーになってから融通が効くし、時間に指図されないから、心配しなくてもいい。それよりも由亜とこうして一緒に居るだけで癒されて、心が浄化されるから俺にとっては大事な時間なんだ。」

「どういう事ですか?そんなスピリチュアルなオーラなんて持ってませんよ?」

由亜の受け答えは、たまに不思議な的を外して来るから面白い。俺は思わずハハッと笑う。

何がそんなに面白いんだろうと、由亜自身は首を傾けている。

彼女と過ごすこのたわいも無い時間が何よりも贅沢だと、俺の中では何物にも代え難い貴重な時間だと思っている。
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