夜の魔王と呼ばれる男、実は過保護で激甘でした
由亜が慌ててタイムカードを押して一息付いていると、ノックも無く翔が事務室に入って来る。
「由亜…電車の話し、俺は聞いてないんだが?」
先程よりは少し威圧感を解いた翔だが、腕を組んで立ち塞がって来るから、逃れられないと覚悟を決める。
「だって…翔さんに話すと…大事になるといけないと思って、なかなか話せなかったんです。」
「由亜の一大事は、俺にとっても一大事だ。後から聞かされた方が傷付く。しかも真那斗からとか…。」
その態度とは裏腹に言葉は弱気だ。
「すいません…でも、本当に大した事なかったんです。気にしないで下さい。」
由亜はそう取り繕って、仕事に入ろうと自分の机へと足を運ぶ。
それなのに翔は逃さないとばかりに隣の椅子に座り、由亜が座る椅子の向きをクルッと変えて、向かい合う形になってしまう。
「由亜、話しが終わってない。」
「でも…始業時間が…。」
「こっちの方が大事だ。いつ、どこで、何をされた?」
「あの…絶対怒らないって、約束してくれます?」
上目遣いでそう由亜から訴えられて、
「分かった…。心を無にして聞くから、話して欲しい。」
と、翔は真剣な目を向けてくる。
「あの…ホント大した事ではなくて…ちょっと…
お尻を触られただけで…。その、満員電車でしたし、私の気のせいかもしれないですし…。
私が…ちょっと過剰なのかもしれません。」
由亜が男が苦手な事は充分承知している。だから、大した事無いと言いながら、怖い思いをした事に違いないのだ。そう思うだけで翔だって、事の大小なんて関係なく怒りが込み上げてくる。
それでも由亜との約束を守る為、頭を片手で抑えて、自らの怒りをどうにか押し込めながら言葉を選ぶ。
「誰だって、知らない奴に触られたら嫌だし、恐怖に思う事は当たり前の反応だ。
…それなのにお前が辛い時に、側にいて寄り添ってやれなかった事が悔しいし、俺よりも先に真那斗が知っている事が辛い。」
翔は正直な気持ちを露として、ため息を深く吐き捨てる。
自分はもしかすると、由亜から見たらその犯罪者と同レベルの、苦手とする男の部類なのかもと、負の感情さえ湧き出てくる。
そうだとしたら…独りよがりの思いを押し付けているのかもしれない…。そう思うと心がズキズキと痛み出す。
「昨日、ここに来る途中でそんな事があって…ちょっと怖くなっちゃって…駅を出てから前に進めなくなってしまったんです。駅でうずくまっていたら丁度、真那斗君がいて…それで…。
翔さんにお話ししようと何度も思ったんですけど、心配かけたくなくて…ごめんなさい。」
「いや…由亜が謝る事じゃない。むしろ気付いてやれなかった自分に腹が立つ。だけどわがままを言わせてもらえるのならば、今夜は送らせてくれないか?」
押し付けにならないように、言葉を選びながら由亜に全権を委ねる。
「…はい。よろしくお願いします。」
少しの間の後、そう返事をくれた由亜にホッとした翔は、いつものように頭を撫ぜようとして、思わず動いてしまった手を握り締め、触れるべきでは無いと自分を制する。
歯痒さや怒りや、焦燥感、いろんな気持ちが押し寄せて、今は上手く太刀まれそうもない。
翔は頭を冷やす為にも、一旦由亜から離れるべきだと思い椅子から立ち上がり、
「見回りに行って来る。」
と、事務室から去って行った。
「由亜…電車の話し、俺は聞いてないんだが?」
先程よりは少し威圧感を解いた翔だが、腕を組んで立ち塞がって来るから、逃れられないと覚悟を決める。
「だって…翔さんに話すと…大事になるといけないと思って、なかなか話せなかったんです。」
「由亜の一大事は、俺にとっても一大事だ。後から聞かされた方が傷付く。しかも真那斗からとか…。」
その態度とは裏腹に言葉は弱気だ。
「すいません…でも、本当に大した事なかったんです。気にしないで下さい。」
由亜はそう取り繕って、仕事に入ろうと自分の机へと足を運ぶ。
それなのに翔は逃さないとばかりに隣の椅子に座り、由亜が座る椅子の向きをクルッと変えて、向かい合う形になってしまう。
「由亜、話しが終わってない。」
「でも…始業時間が…。」
「こっちの方が大事だ。いつ、どこで、何をされた?」
「あの…絶対怒らないって、約束してくれます?」
上目遣いでそう由亜から訴えられて、
「分かった…。心を無にして聞くから、話して欲しい。」
と、翔は真剣な目を向けてくる。
「あの…ホント大した事ではなくて…ちょっと…
お尻を触られただけで…。その、満員電車でしたし、私の気のせいかもしれないですし…。
私が…ちょっと過剰なのかもしれません。」
由亜が男が苦手な事は充分承知している。だから、大した事無いと言いながら、怖い思いをした事に違いないのだ。そう思うだけで翔だって、事の大小なんて関係なく怒りが込み上げてくる。
それでも由亜との約束を守る為、頭を片手で抑えて、自らの怒りをどうにか押し込めながら言葉を選ぶ。
「誰だって、知らない奴に触られたら嫌だし、恐怖に思う事は当たり前の反応だ。
…それなのにお前が辛い時に、側にいて寄り添ってやれなかった事が悔しいし、俺よりも先に真那斗が知っている事が辛い。」
翔は正直な気持ちを露として、ため息を深く吐き捨てる。
自分はもしかすると、由亜から見たらその犯罪者と同レベルの、苦手とする男の部類なのかもと、負の感情さえ湧き出てくる。
そうだとしたら…独りよがりの思いを押し付けているのかもしれない…。そう思うと心がズキズキと痛み出す。
「昨日、ここに来る途中でそんな事があって…ちょっと怖くなっちゃって…駅を出てから前に進めなくなってしまったんです。駅でうずくまっていたら丁度、真那斗君がいて…それで…。
翔さんにお話ししようと何度も思ったんですけど、心配かけたくなくて…ごめんなさい。」
「いや…由亜が謝る事じゃない。むしろ気付いてやれなかった自分に腹が立つ。だけどわがままを言わせてもらえるのならば、今夜は送らせてくれないか?」
押し付けにならないように、言葉を選びながら由亜に全権を委ねる。
「…はい。よろしくお願いします。」
少しの間の後、そう返事をくれた由亜にホッとした翔は、いつものように頭を撫ぜようとして、思わず動いてしまった手を握り締め、触れるべきでは無いと自分を制する。
歯痒さや怒りや、焦燥感、いろんな気持ちが押し寄せて、今は上手く太刀まれそうもない。
翔は頭を冷やす為にも、一旦由亜から離れるべきだと思い椅子から立ち上がり、
「見回りに行って来る。」
と、事務室から去って行った。