夜の魔王と呼ばれる男、実は過保護で激甘でした
部屋に1人残された由亜は、少しの寂しさを覚える。

昨日、何度となく話そうとチャンスを伺っていたのに、結局話し出せなくて…。その事に今、後悔する。

きっと翔を怒らせてしまった…。
そう思うと、泣きたくなるほど心がズキズキと痛み始める。

したすら仕事をこなしながら、就業時間が終わるまでとても長く感じられてた。

コンコンコン

仕事が終わる残り10分のところで、ノックが聞こえてくる。

由亜は『はい…。』と返事をして、思わず振り返りドアに目を向ける。すると、そぉっとドアが開いて真那斗が顔を覗かせる。

「オーナー居ないよな?」

「はい。今日は他店の見回りに行ってます。」

「良かったぁ。クビ覚悟で来たんだ…。」
ホッとした表情で真那斗が由亜の側までやって来て、隣の席の椅子に座る。

「オーナーにサボってるって見なされて、クビにされかねないからな。」
独り言のようにそう言う。

「お疲れ様です。何かご用でも?」
由亜はいつもと同じ態度を崩さず、真那斗に話しかける。

「いや…。話し途中だったからさ、帰り一緒に帰れないかと思って。」
何かを探るような目で由亜を見てくる。

「あっ…オーナーが送ってくれるそうなので、大丈夫です。」
由亜は何事も無いような顔でそう言って、仕事の手を休めない。

「由亜と…オーナーってどういう関係?どう見ても普通じゃないと思うんだけど…?」

そう言われた途端、由亜の心拍は急上昇する。

「あの…特に何も…ただの雇用関係です。」
明らかに動揺している風に見える。

「まさか…付き合ってるんじゃないだろ?」

「まさか!!あのオーナーですよ。私なんて相手にされる訳ないです。」
由亜はキーボードから手を離し、両手を顔の前で振って慌てて全否定する。

「本当に?怪しいなぁー。もしもそうなら…オーナーなんて辞めた方が良い。由亜の手に負える人じゃない。」

「もちろんですよ。オーナーから観たら私なんてお子ちゃまみたいなものですから、父が子を思うような心境だと思います。」
動揺からかつい、早口になってしまう。

「俺が送ってってやりたかったな…。でさ、犯人捕まえてやっつけてやりたかったのに。」

「もう、2度と会う事無いと思いますよ。たまたまですよ。」
由亜は時計を見やりながら、仕事の手を止め片付けに入る。

「多分そろそろオーナー戻って来ますよ。サボリだと思われて、今度こそクビ切られちゃうといけないので、ここから離れた方が身の為です。」

由亜にそう言われ、真那斗は仕方なく重い腰を上げる。

「オーナーだって男なんだから…警戒しろよ。嫌なら嫌だってはっきり言えよ。」
そう言って足早に去って行く。

その後、5分もしない間に翔が戻って来て、由亜の心臓は意味なくドクンと音を立てる。
< 48 / 81 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop