夜の魔王と呼ばれる男、実は過保護で激甘でした

店の入口でチョーネクタイを締めた男が立っていた。名前と要件を伝えると、中から煌びやかなドレスを来た若い綺麗な女性が現れ、こちらへと由亜を手招きする。

その女性の後に緊張して着いて行くと、店の奥にある中二階へと続く螺旋階段に導かれる。

そこで初めて由亜は店内をぐるっと見渡した。

中央にあるステージではピアノの生演奏が行われ、スポットライトの下で、背広姿の男性が滑らかにクラッシックを奏でている。

黒を基調とするフロアは、席ごとに立派なソファで仕切られていて、天井からは大きなシャンデリアがぶら下がっていた。

高級間溢れるシックでラグジュアリーな雰囲気に、由亜は思わず生唾を飲む。

店内には既に沢山の客が来店していて、それぞれに数人ずつ綺麗なドレスを身にまとった女性が付き、楽しそうに話をしている。

ところどころに散りばめられた照明は薄暗く、客の顔がよく見えぬよう、上手くプライベートを保たれている。

ここにいる誰もが皆、一夜限りの出会いを楽しんでいるように見える…。

由亜は慣れないヒールで、螺旋階段を慎重に上りながら、その光景をばぼんやりと見つめた。

案内された場所は、高級感のある革張りのソファが置かれたVIPルームだった。

「では、こちらで少々お待ちください。」
にこやかな笑顔を向けて、女性は去っていく。

12畳ほどの室内はまるで高級ホテルの貴賓室のような空間だ。

本当…私なんて、場違いだ…。
由亜はどうしようもない疎外感に、首をもたげる。
今すぐ逃げ出したい衝動に駆られるが、京香の顔が浮かび、なんとか気を引き留めた。