夜の魔王と呼ばれる男、実は過保護で激甘でした
別れ際、テールランプの灯りが瞬く中、なかなか由亜を返す事が出来ない俺は、彼女の小さな手を握り締め、いつまでものらりくらりとたわいも無い話しを続けた。
「…翔さん、そろそろお仕事に戻らないと…。
日曜日、腕によりをかけてお料理頑張りますから、楽しみにしてて下さいね。」
この約束があるから、私は大丈夫。と、由亜は気丈にも微笑み翔を安心させる。
「分かった。じゃあ、また明日話し合いが終わったら、報告がてら電話するから。」
彼女の手の甲に口付けを落とし、後ろ髪を惹かれる思で手を離す。
驚いて目を丸くする由亜が可愛くて、つい頬にも触れて軽く口付ける。
「しょ、翔さん!これ以上…だめです。心臓が持ちません。」
「隙あらば唇にしたいのを我慢してるんだから、このぐらいは許せ。」
と、翔は人懐っこい笑顔を見せる。
こんな風に笑う人だった?由亜はその優しげな眼差しに、またドキンと胸を踊らす。
由亜が車から降りてお礼を言おうとすると、すかさず翔も降りて来ていつものように見送ってくれる。
由亜も家へと歩き出すが、玄関手前でくるっと向きを変え、また翔の元へパタパタと戻って来た。
「どうした、忘れ物か?」
翔は嬉しさを抑えきれずつい抱きしめそうになるが、寸でのところ理性が働いて、そっと腕を優しく掴む程度で耐え抜いた。
「翔さん…一つだけ。
京ちゃんには…騙されないで。言葉の全てを信じたら駄目です。私がそうだったから…気を付けて下さい。』
こそこそと小さな声でそう言ってまた、小走りで離れて行ってしまった。
俺は返事の代わりに、深く頷いた。