夜の魔王と呼ばれる男、実は過保護で激甘でした
興奮状態の京香は唇を噛み締め、床に正座したままの俺を見下げて声を荒げる。

「由亜は私が送り込んだのよ。知ってた?
貴方が私達の仇だと教え込んで、敵討ちして欲しいって頼んだの。あの子って本当単純だから簡単に動いてくれたわ。」
フンッと鼻で笑いながら、京香は話しを続ける。

「あの子、貴方の懐に入るのに成功したみたいね。
自家用車で送迎したり、休日に会ってデートしたんですってね。
貴方って、ああいうお子様が好みだったのね。純情で従順で素直で…バカが付くほどお人好し。だけど、貴方はまんまと罠にかかったのよ。」

ふふふっと楽しそうに笑う京香に一瞬鳥肌が立つ。

由亜がなんだって…?俺を騙す為に近付いた⁉︎
にわかには信じられない言葉が並び、俺は理解出来ずに、頭の中が真っ白だ…。

俺の心がここに来て初めてグラつく。

昨夜、車で送った帰り際に由亜が言っていた…。

『京ちゃんには…騙されないで。
言葉の全てを信じたら駄目です。私がそうだったから…気を付けて下さい。』
危うく暗闇に突き落とされそうになりながら、その言葉を思い出し、なんとか気持ちを立て直す事が出来た。

この半年見続けて来た由亜の全てが、嘘だったなんて到底思える訳が無い。

由亜だけを信じていればいい。

彼女を愛している。揺るがない思いがここにある。

「いい気味ね!
私達は貴方に復讐する事だけを思って、今まで生きてきたの。貴方が私を拒んだ日からずっと、この日を夢見ていたわ。あの子は私の従順な犬だから、貴方が何を言っても変わらないわよ。
て言うか、もう電話には出ないだろうし、もう、2度あの子には会えないわよ。」
楽しそうに笑う京香は、復讐を果たして満足そうに笑っている。

「俺は…自分がこの目で見て、感じたものだけを信じます。由亜は自由だ。貴女なんかの言いなりにはならない。」
そう言って立ち上がり、おもむろに出口へと足を進める。

京香はもう、俺に用はないだろう…。
これで、俺の事なんて気にせず去ってくれたらこちらだって都合が良い。

バクバクと心臓だけが不吉な音を立ててなり始める。

一刻も早く由亜の声が聞きたい。

小走りで廊下を走りながら、スマホをポケットから取り出しタップする。

エレベーターに乗り込み耳に当てる。
『おかけになった電話番号は…。』
何度掛け直しても、機械的な音声が流れてくるばかり…。

急に血の気が引いたように眩暈がして、エレベーター内で堪らず頭を抱えてしゃがみ込む。
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