夜の魔王と呼ばれる男、実は過保護で激甘でした
コンビニそばの駐車場に車を停め、猛ダッシュで店内へと駆け込む。

「あの、すいません…佐野、由亜と…言う子が、こちらに…来ませんでしたか?」
会計付近にいた店員に、息も切れ切れで話しかける。

「少々お待ち下さい。…店長を呼んできます。」
冷静な対応の店員はいぶがしげな顔で、バックヤードへと入って行った。

「お待たせしました…お客様。もしかして、真壁様ですか?」

「ええ、真壁翔と申します。由亜が何処にいるかご存知ですか?」
この時ばかりは、藁をも掴む気持ちで聞く。

「すいません。引越し場所までは分からないのですが…。
こちらを…由亜ちゃんから渡すように頼まれていたんです。なんでも急に実家に帰る事になったって…。」
そう言って、店長が俺に1通の手紙を渡してくる。

「ありがとう、ございます…。」
俺はそれを恐る恐る受け取って、とりあえずコンビニの外に出る。

駐車場まで我慢が出来ず、街灯の下で手紙の封を開ける。


『          翔さんへ

もっと早くこの気持ちを伝えておけば良かったと、今になって後悔ばかりです。

翔さん、貴方の事が大好きでした。

『colors』の面接を受けたのは京ちゃんの指示でした。その後ろめたい気持ちが、今となっては鉛のように私の心に重くのしかかり、気持ちを伝える事が出来ずにいました。ごめんなさい。

どうか、京ちゃんの事を許してあげて下さい。


               由亜より    』



嗚呼……。

なんでこのタイミングで…
嬉しい筈なのに、何一つ手に入ってないような虚しさが胸をすくう。

危うかった俺と由亜の赤い糸が、この1通の手紙によってより強固なものになったというのに…。

それなのに…当の本人はどこにもいない。

早く由亜に会って一方的な片思いじゃないんだと…実感したいのに、どこにいるんだ…?

今すぐ会いたい。

手紙をスーツの内ポケットに大事に入れて、駐車場へと再び走り出す。

溢れ出す思いを胸に、頭をフル回転させる。

由亜だったら、どうするだろうか…?

例え京香にスマホを奪われ、束縛されたとしても、どうにかして逃げ出して俺の所に来ようとする筈だ。

あの、時折見せる強い眼差しを思い出して、一筋の光が差し込む。

そう思うや否や、車を急発進させ自宅へと走り出す。

彼女がうちに来たのは一回だけ…

自分の足で来た訳じゃなかったから、場所もきっとあやふやで彷徨い歩いているかもしれない…。

こんな夜更けに…
そう思うと心配で心配で気が急く。

変な男に付き纏われてはないだろうか…。
酔っ払いに絡まれはしないか?

京香に連れ戻されてはいないだろうか…

数え切れない不安が胸に押し寄せては、俺の心中を掻き回す。

そして、もう一つの可能性に思い当たる。

もしかしたら…『colors』に向かったかもしれない。

運転の合間に店の入口に立つ黒服に電話をして、由亜を探すように命じる。
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