夜の魔王と呼ばれる男、実は過保護で激甘でした
ピンポン

こんな感動を邪魔するタイミングで玄関のチャイムが鳴る。俺は、由亜を抱きしめたままなかなか離せずにいると、

ピンポン

再びチャイムが鳴るから、これには由亜が反応して、
「翔さん…誰か、来てます…。」

「うん…そうだな。」

俺は名残惜しい気持ちで由亜と額をコツンと合わせ、キスぐらいしておけば良かったと、後ろ髪を引かれつつ彼女を膝から下ろして立ち上がる。

「はい…。」
と、玄関に出てみれば、コンシェルジュが頼んだ品物を持って来てくれていた。

「ご注文の品お届けに来ました。お食事は中まで運びましょうか?」
親切そうな笑顔を向けてそう言ってくるが、今夜の由亜の姿は俺が独り占めしたいと、強い気持ちで拒んで
玄関で受け取る。

「由亜、腹減ってないか?寝る前に少し食べた方がいい。」
ダイニングテーブルに遅い夕飯を並べると、お手伝いしますと由亜がパタパタと寄って来る。

足が痛いのに…走るなと、慌てて抱き上げ椅子に座らせる。

「しばらく歩くな。どこか行きたい時は俺に言え。どこへでも連れてってやる。」
俺が絶対事項のように言うのに、

「そこまでじゃ…大丈夫です。そんなに見た目ほど痛くないですから。」

彼女はいつだって自分が弱ってる時でさえ、甘えたり頼ったりしない。自分で立ち上がり痛みを我慢して歩き出すのだ。

「せめて、この部屋にいる間は俺の言う事を聞いてくれ。ここにはいつまでだって居てくれていいから。」

俺だってそんな頑張り屋の彼女が、唯一甘えられる人になりたいんだと、そこは譲らない。

「本当は…京ちゃんと2人で地元に帰るつもりだったんです。昼間の仕事も辞めてしまって…。」

「それは、由亜の意思なのか?今まで頑張って築いてきた、仕事や地位を、そんなに簡単に捨ててしまっていいのか?」
全てが京香の言いなりならば、由亜の意思はそこに無いのではと心配になる。

「いつかは辞める事になるだろうって思ってましたから…。でも、人間関係も良かったし、やり甲斐はそれなりにあったので、突然辞める事になって…迷惑かけてしまってそれが辛いです。」

「出来ればcolorsは引き続き働いて欲しい。
だが…京香がどう出るか分からない今、同じ職場に戻るのは避けるべきだが…戻りたいのなら…

そうだな、うちの用心棒を通勤時に付けるか…。」

行き帰りさえ気を付ければなんとかなるんじゃないかと思い、そう提案してみる。

「でも…退職届も受理されてますし、スマホも奪われてて、仕事場の人にも連絡が取れないんです。」

「由亜が手放したく無いなら踠き足掻いてみろ。俺がいる。大丈夫だ。」
俺が励ますと、

「…月曜に職場に、ダメ元で連絡を入れてみます。」
と、由亜の目が少し光を取り戻す。
< 60 / 81 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop