夜の魔王と呼ばれる男、実は過保護で激甘でした

新たなる朝

ああ、もう今日から京ちゃんの顔色を伺わなくていいんだ…。

朝、由亜は目を覚まして1番にそう思う。

見慣れない天井に広いベッド。
だけど、ほのかに翔の香りを感じて、なぜか心がホッと落ち着いた。

次の瞬間、ハッとして飛び起きる。

翔さんはどこ!?

こんな広いベッドを占領して、1人伸び伸びと眠ってしまった罪悪感で頭がいっぱいになる。

バタバタとリビングへ向かうが何処にも姿が無い。

キッチンに洗面所書斎に空き部屋、ありとあらゆる場所を探すが翔だけがいない。

急に不安になって血の気が引いてその場に座り込む。

すると、ガチャっと玄関ドアが空く音がする。

慌てて玄関へと続く廊下を走り出す。
「翔さん…!」
バタバタと翔の所へと駆け寄ろうとする。

「こら、走るな。」
慌てたのは翔も同じで急いで由亜を抱え上げて、リビングのソファへと運ばれてしまう。

「足、大丈夫か!?
頼むから自分をもっと大事にしてくれ。」

そのまま由亜の足元にうずくまり、足裏を覗き込む。
突然足を持ち上げられた由亜はコロンとソファに寝転んでしまう。

「きゃっ!?」
と、急いでパジャマの裾を押さえ込む。

腿までずり上がってしまった裾を気にして、引っ張って隠す。
翔はというと傷の具合が気になり過ぎて、それどころではないという風に、足裏を覗きこみ真剣な眼差しで傷を伺っている。

足の裏は思った以上に熱を帯びて、全体的に真っ赤に腫れていた。ばい菌が傷から入ったのではないか思い、倒れ込んだままの由亜を触診する。

顔色を伺えば、潤んだ瞳に頬が赤みを帯びている。

「…熱があるんじゃないか?」

ソファに転がった状態はさすがに恥ずかしいと、抗議したい由亜を尻目に、翔は素早く消えたかと思うと直ぐに戻って来て、医者の様に聴診器を首から下げている。

やっとソファに抱き起こされて、跪いて由亜を診る翔と、思いがけず顔が近付き、意味なくドキドキしてしまう。

首下のリンパ辺りを触診しながら、口の中まで見られるから、

「しょ、翔さん…なんか、お医者様みたいです…。」
由亜は恥ずかしさで一杯いっぱいになってしまう。

「少し胸の音、聴かせて。」
と、パジャマの前ボタンを二つほど開けられて、冷んやりする聴診器を胸の谷間に押し当てられる。

「ちょ、ちょっと…!」
恥ずかしさに耐えかねて、流石に抵抗するのだが、シーッと人差し指で唇を塞がれて結局、翔のされるがまま。

「大きく吸って、吐いて…。」
さすが医師を目指していただけあって、翔の手付きは医者そのものだ。

一方由亜は際どい場所を聴診器で触れられて、口から心臓がでそうなくらいドキドキしてしまう。それなのに、心拍を聴かれるなんて…まるで拷問のようだと、居た堪れない気持ちで一杯だった。

「喉が晴れて赤いし、リンパも少し腫れている。」
両頬を両手で抑えられ目の下瞼を観察されて、お互い息が届くほど近くまで顔が近付く。

不意にチュッと唇が軽く触れられて、ビクッと驚き由亜は固まる。

えっ…今、キス…された⁉︎

目をパチパチと瞬いて、何が何だか分からないほど頭が混乱してしまう。

そんな初心の由亜の戸惑いに構う事なく、2度目のキスは先程よりも深く長く絡み合う。

「…っんんん…。」
上手く呼吸が出来なくて、初めてのキスに翻弄される。

「…止めないと、調子にのるぞ。」
翔から解放される頃には由亜の息は絶え絶えで、こてんと再びソファに寝ころばされ、組み敷かれてしまう。

熱を帯びた翔の目は、由亜を求め容赦無く煽る。

3度目の唇が降って来る頃には、甘い痺れにも似たモヤが頭の中にかかり、由亜の思考はショート寸前だ。

翔の手がパジャマの第3ボタンを外そうと動き出すから、ドキンと胸を高ならせながら、さすがにその手を慌てて止める。

「…しょ、翔さん、ま、待って…。」

「早く止めろよ…。危なく調子にのるとこだった。」

フーと一息吐いた翔は、組み敷いたままの状態で、再び医者のように手首を取り脈を取り始める。

「…早いな…。」

「…それは、翔さんのせいです…。」
息を整えながら由亜が思わずムッとして翔を睨む。

「可愛いな。」
フッと笑ってそんな由亜を軽くあしらい、何事もなかったように抱き上げてベッドへと運ぶ。
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