夜の魔王と呼ばれる男、実は過保護で激甘でした
次に目覚めた時、翔と抱き合った形で寝ていた自分に驚いて、思わずベッドから落ちそうになる。

そんな由亜を翔はすかさず抱き止め、間一髪のところで事なきを得た。

翔だって、この状態で熟睡出来るほどの神経は持ち合わせていなかったが、寝入りばたで握られた手を振り解く事こそ不可能だったのだ。

「おはよう…寝起きが良すぎるのもどうかと思うが…。」
咄嗟に抱き寄せた状態のまま、フッと笑いながら翔が言う。寝起きの声は少しハスキーで普段以上に色気が漂う。

由亜はドギマギしながら、なんとか平常心を保とうと、息を深く吸い込む。

「おはよう、ございます。朝から…心臓に悪いです。」

「それはこっちのセリフだろ。あまり驚かさないでくれ。熱は下がったか?」
おでことおでこをくっつけてくるから、いちいち心臓がドキンと跳ねてしまう。

本当にこの人が彼氏で私はこの先大丈夫何だろうかと、由亜は人知れず心配になってくる。

恋愛偏差値が高すぎて、とてもじゃないけど太刀打ち出来ない…。

「腹減ったな。何か買って来るから大人しく待ってろ。風呂に入りたかったら自由に使えばいいし…
服も足りないな。体力的に大丈夫だったら、このさえ買い出しに行くか。
ここに住むにしてもこれからいろいろ必要だろ?」

それには由亜も驚いて、
「ちょ、ちょっと待って下さい。私、ここに住むんですか!?」

「俺はそのつもりだが。由亜はどうしたい?
もう2度と京香の元には帰さないからな。」

確かに京ちゃんの元に戻る気はないけど…。

由亜はただ、翔に会いたくて私は大丈夫だと伝えたくて、会いに来ただけで…まさか寝込んで3日も厄介になるなんて思わなかったし、その先を考える余裕もなかった。

「私、着の身着のまま逃げて来たので…お財布すらも何も持って来てないんです。
一度取りに戻らないと…。」
急に現実に呼び戻されて、心がしゅんと萎んで俯いてしまう。

「金なんて持たずとも由亜1人くらい充分養えるが、身分証は必要だな。
分かった。店の奴に頼んで由亜の荷物を取りに行ってもらう。」

あれから3日も経ったのだから、京香はどこにいるだろうか?
ホテルに3日もいるとは思えない…アパートはとっくに引き払っていたし、当初行く予定だった由亜の地元だって、住む部屋を決めてあった訳では無いのだから…。

由亜は少し悩んで口を開く。

「京ちゃんは今、どこに居るのか…。」
やっとの思いで話し出したのに、唇に翔の人差し指が急に触れて驚き固まる。

「シー。後の事はどうにでもなる。
知り合いの情報通に頼めば秒で見つけられるから由亜が考える事じゃない。お前は俺の事だけ考えてろ。」

そう咎めたかと思うと、ベッドから起き上がりどこかに電話をかけ、いとも簡単に人探しを手配してしまった。

「さぁ、由亜は風呂へ行ってさっぱりしてこい。その後、朝食でも食べに行って、ついでにいろいろ買い揃えるぞ。」

あ…私…3日もお風呂に入ってない…。
発熱してから何度か、汗を拭いたり着替えたりはしたけれど…。そう思うと急に羞恥心が大きくなる。

ヤダ…私臭いかも…慌ててパジャマをクンクンする。

「心配しなくても由亜の匂いは良い匂いだ。
ただ、俺にとっちゃ媚薬にもなるから、襲われたくなかったらさっさと風呂に行った方がいいぞ。」
面白そうにそう言って、翔が笑う。

由亜はそそくさと立ち上がり、逃げるように洗面所へと駆け出そうとする。

「こら。あんまり走るな。足の怪我に響くといけない。」
ひょいと肩に担ぎ上げられて、そのままの体勢で連れて行かれる。

「何なら、俺が洗ってやろうか?」
本気なのか冗談なのか分からない表情で、翔がそう言って来るから、

「だ、大丈夫です!自分で出来ます。翔さんはご自分の支度を…。」
真っ赤になりながら、翔の背中を押し廊下へと押し出す。

ハハハハッ…。
ドア越しに楽しそうに笑う翔の声を聞きながら、由亜は急いでシャワーを浴びた。
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