夜の魔王と呼ばれる男、実は過保護で激甘でした
(由亜side)

初めての買い物デートはとても楽しくて、時間を忘れてしまうほどだった。

終始笑顔の翔さんと手を繋ぎ、堂々と歩けるのは凄く嬉しかった。

それに、私が興味を持つ物を全て買おうとするから、まるで過保護な父親のようで面白かった。
気付けばカート一杯に袋が並び、何をどれだけ買ったか分からなくなるくらい。

そのまま隣接するスーパーに寄り、夕飯の買い物を済ませた後に、当たり前のように翔さんのマンションに帰る。

何日か前に訪れた時はもう2度と来る事は無いと思っていたのに…。

エレベーターに乗り込むと、目の前は一面ガラス張り、この街の夜景を額縁にはめ込んだかのような景色が綺麗で、『うわぁー』と思わず感嘆してしまう。

「どんどん車が小さくなっていきますね…。」
そんなどうでも良い私の話に、フッと笑う翔さんが隣に居てくれて、それだけで嬉しくて心が暖かくなる。

「そんなにもの珍しい景色か?」
笑いながら、翔さんも同じ景色を一緒に見ている。

「私、この景色を一生忘れません。」
急に思いが込み上げて来て、噛み締めながらそう言うと、

「由亜は安上がりだなこんなんで感動するなんて…。これからもっといろんな景色を見せてやるから、この夜景なんて一瞬で色褪せるぐらいの壮大な景色を。」

後ろからそっと抱き寄せられて、ドキンっと心拍が急上昇する。

「…それでも、翔さんと観る景色は忘れたくありません。」

「ここに住めば、これから毎日でも見られるぞ。」
耳元で悪魔の誘惑のように囁かれる。

「少しだけご厄介になりますが…ちゃんとアパート探します。」

「頑固だな…俺はお前の彼氏だぞ。
親族の次に由亜に1番近い立場になれたのに、もっと甘えて、我儘言えばいい。」

「充分甘やかされてます…。これ以上の贅沢は天罰が下ります。」

「俺が神だったら由亜には今まで大変だった分、これからは最上級の幸せを与えるけどな。」

このままずっと聞いてたら、翔さんの巧みな話術のトリコになってしまいそうだ。

エレベーターはタイミング良く止まり、2人の世界から現実に呼び戻してくれる。

ハァーーと、翔さんはわざとらしくため息を吐いて魔法を解いて、部屋へと続く廊下を私の手を取り導いてくれた。
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