夜の魔王と呼ばれる男、実は過保護で激甘でした
捕まえられていた両腕を京香が力いっぱい突き放す。
私は、目をぎゅっと瞑って、次の衝撃に備えて、反射的に身を固くする。

「由亜!!」
それなのに…どこからか駆け込んできた翔さんに抱き止められて、事なきを得る。

「由亜、大丈夫か⁉︎」
ビルの脇道は薄暗く顔がよく見えない。2人地面に転がったまま、手探り状態で私の両頬に触れてくる。
安堵からか身体小刻みに震えてくる。

そんな私を大事そうにそっと横抱きに抱き上げて、

「2度と由亜に会うなと伝えた筈だ。
破れば法的処置に出ると言わなかったか?」
翔さんはいつもより1オクターブ低い声で、冷酷な目を京ちゃんに向けて容赦無く言い放つ。

「ぐ、偶然会ったのよ。この子が警戒心もなくのこのこ着いて来たの。私のせいじゃないわ。」

「力尽くで連れ出した事はコンビニの店員に聞いた。お前の放つ言葉に信用性は既に無い。」
翔さんから今にも殴りかかりそうな程の怒りを感じ、私は震えながら翔に抱き付き止める。

「翔さん、私なら大丈夫です。…早く帰りましょ。」
1秒でも早くこの場から立ち去りたいと、懇願の眼差しを向ける。

フーッと深いため息を落とした翔さんは、いくらか冷静さを取り戻し『分かった。』と告げる。

「知り合いの弁護士から連絡するように伝える。逃さないからな。」

そう言って翔さんは踵を返し、私を抱き上げたまま、その場を足速に去った。

< 70 / 81 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop