夜の魔王と呼ばれる男、実は過保護で激甘でした
「由亜、怖い思いをさせて悪かった。1人で店から出すべきじゃなかった。俺の判断ミスだ…ごめん…。」

車に乗った途端に翔さんが私に頭を下げてくるから、

「翔さんのせいじゃないです。私がもっと警戒心を持つべきでした。心配かけてごめんなさい。」
自分の行動を反省する。
安堵したせいか、止めどなく涙が湧き出てしまう。

「どこか…痛いのか?」
翔は運転席から身を乗り出して、私の涙を受け止めるべく抱きしめてくれる。

「…大丈夫です…翔さんが来てくれたから…ホッとして…。」

翔さんに身を預けながら、しばらくヒックヒックと泣いてしまった。

こんなに優しい人なのに…京ちゃん酷いよ…翔さんを悪者にしようとして…

今なら分かる信じべき人が誰なのか。
京ちゃんの言葉を思い出し、段々と悔しさと怒りが込み上げてくる。もっと反論するべきだったと唇を噛み締める。

「由亜…もうそんなに泣くな。病み上がりなんだから…。」
翔さんが優しく背中をさすってくれるから、気持ちが段々と落ち着いて…気付けば意識を手放していた。


その次の日から益々過保護になった翔さんは、事務室の仕事を全て家に運んで来て、在宅ワークが出来るようにと私専用のPCまで用意してくれた。

「なぜもっと早く気付かなかったのか、俺とした事が…。早い段階でこうしていれば、由亜に変な虫が付かなかったのに…。」
独り言のように愚痴る翔さんを、私は仕事をしながらフフッと笑う。

「笑い事じゃないぞ。京香にだって会わずに済んだはずだ。」
どこまでも過保護で心配症で優しい人。

あれから直ぐ、顧問弁護士の勧めで警察に連絡して、被害届を提出した。

握られた腕には、紫色に浮かび上がる程のあざが出来ていたが、それが動かぬ証拠になり、警察は直ぐに動き出し、京ちゃんの居場所を見つけ出した。

そして、逃げる恐れがあると言う事で、裁判が始まるまで京香は留置所に入れられた。

私にとって唯一の身内だった京ちゃんだったが、今となっては同情すら浮かばなかった。

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