夜の魔王と呼ばれる男、実は過保護で激甘でした
月日は流れ半年経ったある夏の日、由亜と翔はめでたく結婚式を挙げる。
当初、由亜は花嫁衣装を見せたい人も、喜んでくれる人もいないからと、入籍だけで大丈夫だと話したのに…
『俺が、観たいし嬉しいから。』と言いくるめられ、結婚式をやる事にした。
人数は由亜の希望で、出来るだけ小規模にしてもらった。
式場は都会の片隅にある落ち着いた雰囲気の教会で、何よりも由亜が素敵だと目を輝かせていた場所だった。
由亜側の参列者は会社でお世話になっている上司に、同僚、同期の友人達…
翔は店のママ雅美とホステス達にホスト達…
「招待客のレベルが高過ぎて…私なんてくすんでしまいそう。」
それはそうだ。彼女達は毎晩ドレスを着こなしているプロなのだから…
白い純白のウェディングドレスに袖を通した由亜だけど、まるで着せられてる感が否めない。
「そんな事ありません。奥様はとっても綺麗です。」
スタイリストさんが笑顔で、由亜の気持ちを上げてくれる。
「お世辞でも嬉しいです。」
緊張も相まって、今日の由亜は表情が硬い。
いつだってどんな格好をしていようが絵になる旦那様の隣が、こんな私で良いのだろうか…。
教会の入口で翔は待っている筈だ。
バージンロードを一緒に歩く父のいない由亜だから、翔が一緒に歩いてくれる事になっている。
一歩ずつ教会へと近付いて行く。
段々と緊張も増し始め、自分の心拍音が分かるくらいだ。
「由亜…とても、綺麗だ。」
ひと足先に教会入口に辿り着いていた翔が由亜を見るなり、溢れそうな笑顔をくれる。
由亜は恥ずかしくてはにかみながら、お世辞でも嬉しいなと少し気持ちが浮上する。
「翔さんの方が素敵です。凄く似合ってます。」
今日の翔は純白の光沢のある燕尾服を、堂々と着こなしている。
いつもの何倍もカッコよくて眩しくて、目を合わす事も出来ないくらいだ。
教会からはパイプオルガンの音が流れ始める。
由亜は翔の隣に並び、リハーサル通りに腕に手をそっと置く。
「由亜、こっち見て。」
コソッと囁くようにそう言われ、緊張しながら視線を投げる。
「由亜、君はもう1人じゃない。
忘れないでくれ、これからは俺が必ず隣にいるから。」
翔は満面の笑顔でそう伝えてくれた。
「ありがとうございます…こんな私をもらってくれて、このご恩はこれから精一杯返していきます。」
「こちらこそだ。こんな面倒な男の元に来てくれてありがとう。俺はただ隣で笑ってくれていたら、それだけで幸せだ。」
大きな木製の扉が音を立てて動き出す。
眩いばかりに光が溢れ、由亜はつい目を細める。
「私もです。どうぞ、末永くよろしくお願いします。」
小さく頭を下げて、2人揃って一歩を歩み出す。
この先にどんな困難が待ち受けていようとも、2人なら無敵になれると由亜は思う。
一歩一歩ゆっくりと、赤い絨毯を踏み締めながら、未来に向かって歩き出す。
fin.
※この後、番外編『初夜の営み』に続く。