夜の魔王と呼ばれる男、実は過保護で激甘でした

初夜の営み

結婚式も滞りなく終わり、その後は雅美ママ主催の二次会が、近くの高級ホテルの最上階を貸し切って行われた。

忙しい1日だった。
純白のウェディングドレスから始まって、本日5回目の衣装替えでやっと朝着た洋服を身にまとう。

ふぅーと深い息を吐き、控え室のソファに身を任す。

「由亜ちゃん、今日1日大変だったでしょ。お疲れ様。花嫁は家に帰ってからもきっと大変だから、今夜は頑張ってね。」

二次会のドレスの着付けを手伝ってくれた雅美ママが、意味ありげな目を向けて由亜に微笑む。

「今日は1日ありがとうございました。雅美ママのおかげで、二次会もみんな楽しそうで良かったです。」
由亜は立ち上がり、姿勢を正してお礼を言う。

「だけど、まさかあの真壁君が結婚するなんて、店の誰も思っていなかったから驚いたわ。あの人、昔からどこか冷めてて誰にも心を開かない人だと思っていたけど、由亜ちゃんには違ったのね。今日は珍しい彼が見れて良かったわ。」

「珍しい…ですか?」

「そうよ。仕事じゃあんなに穏やかに笑ってるとこなんて、見たことなかったから、魔王が笑ってるってみんなで驚いたのよ。」
確かに仕事ではいつもキリッとしていて、どこか近寄り難いオーラを醸し出していたけれど…。

「普段は普通に優しい人です。」
由亜はそう言ってフフッと笑う。

「それは由亜ちゃん限定ね。
あの人かなり貴方に夢中だって事は見てで分かったわ。」

楽しそうに笑いながら雅美ママは『じゃあ、また月曜日に。』と、にこやかに帰って行った。

しばらく1人ソファに寄りかかり今日1日を振り帰る。

今日の日は一生忘れないだろう。

目を閉じれば、翔さんの笑顔が甦る。  
結婚式ちゃんとやって良かったな。

幸福感と心地良い疲れに身を任せる。

コンコンコン

ノックの音が部屋に響き、由亜はそっと目を開ける。

「由亜、そろそろ行けるか?」
ラフな服に着替えた翔が、こちらを伺いながら控え室に入って来る。

「もう眠そうだな…。
今夜はこのホテルに部屋を取ってあるから、直ぐに風呂に入れる。」

「…そうなんですか?さすが翔さん…。」
既に電池が切れかかった由亜だが、なんとかソファから身を起こす。

「歩けるか?」
翔だって疲れている筈なのに…終始由亜を気にかけ、抱き上げてくれようとするから、

「大丈夫です。翔さんだって疲れたでしょ?」
由亜は自分で歩けるからと荷物を持って立ち上がる。

「俺は今日は脇役に徹したから、由亜の方が着せ替え人形みたいで大変だっただろ。」

「ふふふっ着せ替え人形…本当ですね。」
由亜が可笑しそうに笑う。

「…酔ってるのか?」
サラッと頬を触らせて、思わずドキッと心臓が跳ねる。

「二次会でちょっとだけ…オレンジジュースだと思ったらお酒だったんです。」

翔から怪訝な顔で見つめられて、少し戸惑い目が泳ぐ。それから、何も言わずに由亜から荷物を取り上げて、手を繋いで控え室を後にした。

エレベーターに乗って特別階のに到着する。
翔に導かれるまま大人しく着いて行くと、両開き扉のスイートルームに通される。

「凄い…。」
言葉に出ない程の広い室内、一面ガラス張りの広い窓からは眼下に夜景、空には星が瞬いている。

室内は仄暗くスポットライトだけがほんのりとついているだけだ。

「綺麗…。」
由亜は吸い込まれるように窓際に足を運び、しばらく時を忘れて夜景を見つめる。

「夜景はもう見飽きたと思っていたが、今夜は確かに綺麗だな。」
いつの間にか近くに来ていた翔に後ろから抱きしめられて、ビクッとしてしまうほど、我を忘れて見入ってしまっていた。

「翔さんのお家から見える夜景も絶景ですけど、ここは…より高くて星空も綺麗です。」

「そうだな…。ここはネオンの灯りが遠いから、星の瞬きがよく見える。」
ロマンチックな風景に意識が吸い込まれそうだ。
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