【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈2〉
3.十歳の夏――初恋
「じゃあまた来週な! アーサー」
日が傾き始めた頃、ヘンリーは僕に向かって大きく手を振りながら帰っていった。
僕はその背中が王宮の門の方へと消えていくのを見届けて、自分の部屋へと向かう。
東側の階段を三階まで上がり、長い廊下を進んだ先にあるのが僕の部屋。扉を開けると、夕方の温い風が僕の横を駆け抜けた。
「あれ……?」
おかしいな、窓が開いている。ちゃんと閉めて行ったはずなのに。
不思議に思った僕は、扉を開けたまま中の様子をうかがった。
けれど特に変わったことはない。テーブルやソファが動かされた形跡はないし、本棚の本の位置も変わっていない。テラスへと続くガラス扉もしっかりと鍵がかけられている。
「……おかしいなぁ」
独り言のように呟いて、けれどそこで僕はようやく気付いた。
寝室へと続く扉が、わずかに開いていることに。
「……?」
――変だな。寝室のドアを閉め忘れることなんてないのに。もしかして誰か入った? いや、侍女がこの部屋に入ることはあっても、それは午前中の掃除の時間だけ。それ以外で寝室に入ることはないはずだ。当然、窓を閉め忘れるなんてことも……。
僕はその違和感の正体を探ろうと、そっと中を覗いてみる。
すると、やはり窓が開いていた。夕暮れ色に染まる部屋で、カーテンがゆらゆらと風に揺らめいている。
「窓の鍵は閉めたと思ったんだけど……」
僕は窓を閉めようと、中に足を踏み入れる――けれど。
「――え?」
瞬間、僕は気付いてしまった。部屋の中央に鎮座する、僕にはまだ大きすぎる天蓋付きの巨大なベッド。そのカーテンの向こう側に、一人の女の子が横たわっていることに。