【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈2〉
たまたま居合わせて合流したってこと? いいえ、そんな偶然あり得ない。
ということは、私とウィリアムはルイスに尾行されていたということになる。それも、ハンナを巻き込んで……。
「……っ」
――ハンナったら、そんなこと一言も言わなかったじゃない!
私はようやくその事実に気付き、思わず湯舟から立ち上がった。
まさか尾行されていたなんて、まったく気が付かなかった。ほんの少しの気配も感じることができなかった――そのことに、私は酷く動揺する。
――嘘でしょう……⁉
ああ、私はこの二ヵ月でどれだけ腑抜けてしまったのだろう。つけられていることに気付かないなんて、どれだけ油断していたのだろう。たとえ悪意のない尾行だったとしても、気付かないなど絶対にあってはならないのに……。
――ならばルイスは気付いたはずだ。私とニックの関係に。
彼の事だから、私とニックがどんな関係だったか既に調べ上げている可能性だってある。
それなら、話は早い……。
――ルイスに直談判しなくちゃ。
私はそう心に決める。――するとそのとき、浴室の外からハンナの声がした。
「お嬢様、申し訳ございません。ヘアドライ用のタオルが足りなくて……取って参りますのでしばらくお待ちくださいね」
――あぁ、今日は使用人が出払っているからいつもと勝手が違うのだろう。バスローブはここにあるが、髪を乾かすためのタオルが無かったとかそんなところか。
私は肯定の意を込め、再び二度手を叩く。同時に扉の向こうから、ハンナの気配が消えた。
私はハンナが戻る前に首の痣を隠してしまおうと、湯船から上がりバスローブを羽織る。
鏡の前に立ち、持ち運び用のコイン大の白粉ケースから、粉を指に取り肌の上に伸ばしていった。――すると、そのときだった。
「アメリア、そこにいるのか?」
「――ッ⁉」
それはウィリアムの声だった。
驚きのあまり、私の身体が硬直する。
――どうしてウィリアムが私の部屋に? いつもは入ってこないのに! ああ、そんなことより、鍵……! 鍵をかけなきゃ!
そう、今この浴室の鍵は開いている。
声を出せない今、何かあったときに知らせられないからと、ハンナから鍵をかけないように口酸っぱく言われているのだ。
「いないのか? 開けるぞ」
――駄目!
私は急いで扉に駆け寄った。けれど、間に合わなかった。
私が鍵を閉めるより早く、扉が開いてウィリアムと視線がぶつかる。――ウィリアムの顔が、赤く染まった。
「なっ……!」