【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈2〉
まさか侍女も伴わず湯に浸かっているとは思わなかったのだろう、彼はバスローブ姿の私に、釘付けになる。
「す――すまない! まさか風呂に入っているとは思わず……」
しどろもどろに呟いて、取り繕ったように顔を逸らすウィリアム。
けれどそれも束の間、彼の瞳が、大きく見開く。――その視線を、こちらに戻して。
「……それは……いったい何だ……?」
――あぁ、気付いてしまったのね。
私の首の、手のひらの形の赤い痣。そこに、ウィリアムの視線が突き刺さる。
「その……痣は……まさか……」
私の返事がなくとも、意味を悟ったのだろう。彼の顔が驚きに満ちる。
「首を……絞められたのか……?」
「――っ」
あぁ――気付かれたくなかった。この人にだけは、こんな姿見られたくなかった。
そう思っても、もう遅い。
「なぜ言わなかった⁉ いったい誰がこんな……あの子供か? マクリーンもこのことを知っていたのか? あの男は知っていて黙っていたのか……⁉」
「……っ」
ウィリアムの顔が怒りに染まる。今まで見たことのないほど感情的に……彼は動揺を露わにする。
「どうしてだ……なぜ隠そうとする? 俺はそんなに頼りないのか……?」
悔しげに揺れる彼の瞳。今にも泣き出しそうに震える唇。――その腕が私の背中に回されて――けれど、そこで止まった。
ウィリアムが、自嘲気味に笑う。
「――自業自得……だな」
「……?」
「君と真剣に向き合ってこなかった……こんな俺を……頼れるわけ、ないよな」
「――っ」
「君は何一つ悪くない。悪いのは全部俺だ。偽りだらけなのは……俺の方なんだから」
――違う、違うの。これは全部私の我が儘、私が好きでしたことなの。だからあなたがそんな顔する必要ない……!
そう思ってウィリアムを見つめても、私の想いは伝わらず、こちらに背を向けるウィリアム。
「怒鳴って悪かった。服を着たら俺の部屋に来てくれるか? 君に大事な話がある」
そう言い残し、彼は部屋から出ていこうとする。
――あぁ、待って、行かないで! 私の話を聞いて……!
心が叫ぶ。けれどやっぱり私の声は声にならず、喉からは掠れた空気が漏れるのみ。
しかも間の悪いことに、急な頭痛が私を襲った。
締め付けられるような強い痛みに耐えきれず、私はその場にしゃがみ込む。
「――っ」
あぁ、なんでこんなときに……。