【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈2〉

 ウィリアム、お願い。行かないで――そう思ってもどうすることもできなかった。

 痛くて――痛くて。手放しそうになる意識の中で、ウィリアムの背を見つめることしかできない。

 だが次の瞬間、力の抜けた私の左手から白粉の器がタイルに転がり落ち、カツンと小さく音を立てた。
 その音に釣られ、不意にこちらを振り向くウィリアム。――その顔が瞬く間に青く染まり……。


「アメリア⁉ いったいどうした……!」

 叫ぶようにそう言って、倒れかける私を抱き留めた。
 そんな彼の態度はまるで本当に私を心配してくれているようで、私はとても妙な気分に襲われた。

「すぐに医者を呼ぶ」
「…………」

 それはいつもの彼らしくない、消え入りそうな声で――。

 ――あぁ、いったいどうして? なんであなたがそんな顔をするの? どうしてそんなに傷ついた顔をするの?

 辛そうな顔で、私をベッドに運ぶウィリアム。
 彼は私の身体を下ろすと、「医者を呼んでくる」と繰り返し、私に背を向けようとした。

 けれど私はもう離さない。もう彼を、行かせない。

 私は痛みに耐えながら――ウィリアムのシャツを掴んで、引いた。

「――ッ⁉ どうした、なぜ止める?」

 困惑の色を浮かべるウィリアムに、私は必死の思いで唇を動かす。
 すると、彼は私の意思を読み取ってくれる。

「――行かないで……? そう言ったのか?」

 ――あぁ、良かった、伝わった。

 私は肯定の意を込め頷く。すると、なぜか悲しげに微笑む彼。

「俺は何一つしてあげられていないのに……それでも君は、俺を引き留めてくれるのか?」

 その言葉に、表情に、私はとても切なくなった。
 どうして彼がこんな顔をするのかわからなかった。
 それに、こんな顔をされたら……こんなことを言われたら、本当に愛されてるのかもって思ってしまう。

 ――ああ、でも、きっとこれはチャンスよ。今なら伝えられる。きっと、伝わる……。

 私は彼のシャツから手を放し、今度はネクタイへと手を伸ばした。
 そしてしっかりと掴むと、全力で引っ張った。
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