【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈2〉
「……ウィリ、アム……? 何か……」
「――熱」
「……?」
「君、熱があるぞ」
「……え?」
その言葉に、私は妙に納得した。先ほどからの頭痛はそのせいか。
それを自覚したら、今度は寒気を感じるような……。
けれど私はウィリアムに心配をかけたくなくて、朦朧とする意識の中で必死に唇を動かす。
「……平気。人間、誰しも熱はあるものよ」
「こんなときに冗談を言うやつがあるか! 今度こそ医者を呼ぶからな。――誰か! 誰かいるか! 医者を呼べ、今すぐにだ!」
私の冗談を叱り飛ばし、部屋の外に向かって声を張り上げる彼。
いつもなら決してあり得ない罵声に近いウィリアムの声に、廊下を歩いていたメイドは驚いたのだろう。「ガシャン!」と何かを床に落とし、その後数秒遅れて、「すぐに呼んで参ります!」と叫んで駆けていく。
その返事を聞いたウィリアムは、私の手を優しく握ってくれた。
「大丈夫だ、すぐに良くなる。うちの医者は、名医だから」
それはまるで彼自身に言い聞かせているような言葉で、私は真に理解する。
彼は本当に私を大切に思ってくれているのだと。私に何かあったらと、不安に思ってくれるのだと。
私はそれがとても嬉しかった。けれど同時に、とても苦しかった。
彼には、私のせいで傷ついてほしくない。私のせいで、悲しい思いをさせたくはない。
だから、私はどうにか笑みを作る。これぐらい平気だと、そう伝えようとした。
けれどそれは叶わなかった。酷い眠気に襲われて、声を出せなかったのだ。
――ああ、目を開けていられない。瞼が……重い。
全身から力が抜け、指一本動かせなくなる。
「……アメリア?」
ウィリアムの声が遠い。
私の名前を呼ぶ彼の声が……まるで夢の中のように、ぼんやりと聞こえる。
「どうした……! 俺の声が聞こえるか⁉ 聞こえたら返事をするんだ、アメリア!」
酷く取り乱したような彼の声が、私の意識をつなぎ留めようとする。
けれど、やっぱり眠気には勝てなくて。
深い海の底に沈むように、全身の感覚が消えていく。彼の声が聞こえなくなる。思考が闇に覆われて、何も考えられなくなる。
「――アメリア!!」
彼の叫び声を最後に、私の意識はぷつんと途切れた。