【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈2〉
第5章 ユリアとエリオット
1.追憶――十五の春
「……リア、――ユリア!」
「――!」
その声にハッと顔を上げると、エリオットが向かいの席から心配そうにこちらを見ていた。
わたしの手の中のカップは、いつの間にか温くなってしまっている。
「さっきからずっとぼんやりしているけど……どうかした?」
「……あ……えっと……」
ここはエリオットの住む町の、たった一軒しかない飲食店だ。わたしたちはその店のテラス席でお茶の時間を過ごしていた。
けれど、わたしはいつの間にか考え事をしていたようで……。
――あぁもう、わたしったら。せっかくエリオットと久しぶりに会えたのに、彼の話も聞かずにぼうっとしてしまうなんて……。しっかり、しなくちゃ。
「ごめんなさい。何でもないの」
わたしはなんとか微笑んでみせる。
けれどエリオットには、わたしの作り笑いなんてお見通しのようで……。
「なんでもないわけないだろう。君、やっぱり顔色が良くないよ。ちゃんと寝られてる? おばあさまの具合、そんなに悪いのかい?」
「――っ」
彼の言葉に、わたしは咄嗟に目を伏せた。
――あぁ、駄目ね。彼には隠し事なんてできない。
「……そう、……そうね。ナサニエル先生は……もうあまり長くはないだろうって……」
「そんな……」
「仕方ないわよ。もう、ずいぶん歳だもの」
――半年前、年が明けた頃、おばあさまは体調を崩してしまった。今年の冬はここ数年のうちでも特に寒かったから、年老いた身体には堪えたのだろう。
おばあさまの体調は季節が春に移り変わっても良くなることがなく、それどころか日に日に悪くなり――ついにはベッドから起き上がることもままならなくなってしまった。
「……今日はありがとう、エリオット。わたし、もう帰らなきゃ……」
わたしはエリオットにお礼を伝え、一人静かに席を立つ。