【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈2〉


 *


 町を出て広い草原を抜け、わたしたちは通り慣れた緑の道を進んでいく。

 木々の隙間から降り注ぐ金色の光に目を細め顔を上げれば、そこにはいつもよりも澄んだ高い空が広がり、数羽の鳥たちが大きな羽を広げていた。
 その羽ばたきが枝葉を揺らし、そこから吹き抜ける青い風が隣を歩くエリオットの髪をさらりと揺らす。同時にきらりと光る、彼の美しいヒスイ色の瞳。

 記憶のある頃からずっと過ごしてきた、ここはわたしの庭のようなもの。一人でも寂しくはない、怖くはない、むしろ心地よく感じるほどに、わたしはこの森を愛している。

 けれど慣れたこの道も、この景色も、エリオットと一緒だと不思議といつもと違って見えた。彼と並んで歩くこの道は、まるで初めて通る場所であるかのように全てが輝いて見えるのだ。


 わたしはエリオットと右手を繋いだまま、彼の横顔をじっと見上げる。

 すると彼はすぐに気が付いて、微笑んでくれた。

「なんだか久しぶりだね。こうやって手を繋いで二人で森を歩くの」

 エリオットはそう言って、わたしの手を握る左手に少しだけ力を込める。
 わたしより少しだけ高い、彼の体温。それがとても、心地いい。

「そうね、確かにそうかもしれないわ」

 わたしが微笑み返すと、彼は懐かしそうに目を細めた。

「子供の頃はいつも手を繋いで散歩したよね。二人でこの森を走り回って、果実や木の実を拾ったり、木登りをしたり、リスやうさぎを追いかけたり……。小川で魚を捕まえたりもしたね」
「そうね。木登りはわたしの方が上手かったわ」
「はははっ、確かに。木登りは今でも君には勝てないだろうな。でも足なら僕の方が速い」
「もう、当たり前でしょ! わたしたちいくつになると思っているの? 今でもわたしの方が速かったらそっちの方がおかしいわ!」
「ふむ、それは確かにそのとおりだ」

 彼はそう言うと、すっとぼけたような顔をしてわざとらしく口角を上げた。

 そのどこか不敵な笑みに、わたしの心臓がきゅうっと締め付けられる。
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