【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈2〉

 肩を揺らせば起きるだろうか? そう思ったが、紳士たるもの許可なくレディの身体に触れるわけにはいかない。それにこんなところを見られたら僕にとっても彼女にとっても良くないことになるだろう。そう思うと、むやみに人を呼ぶこともできなかった。

 結局、僕はしばらく様子を見ることに決めた。夕食まではまだ十分時間があるし、目が覚めるまで待てばいい。
 それにこれだけ声をかけても起きないのだ。余程疲れているのだろう。起こすのは可哀そうというもの。

 僕は彼女がいつ起きても気付けるようにと、ベッド脇に椅子を持ってきてそこに腰かける。
 そうしてしばらく彼女の寝顔を眺めていると――あることに気が付いた。

 初対面の人に会ったときはいつも感じる、不信感と猜疑心(さいぎしん)。それが彼女に対してだと芽生えてこない。そういえば初めてヘンリーに会ったときもそうだった。
 どうしてだろう。この子が今、寝ているからなのかな。

 それに……すごく、可愛い。

「まつ毛……長い。キラキラしてる」

 彼女の寝顔の可愛さに、僕はつい見入っていた。僕に近づいてくる貴族の子女はたくさんいるし、みんなとても可愛いけれど、見ていてこんなにドキドキするのは初めてだった。

「起きたら……名前……聞かなきゃ……な」

 自身に言い聞かせるように呟いて、僕は大きく伸びをする。

 あぁ、今日は疲れたな。ヘンリーがいなくなったら……僕は……どうしよう、かな……。

 僕の頬を撫でる夕暮れ時の優しい風。その心地よさに、自然とまぶたが落ちてくる。
 そうして僕は、いつの間にか夢の中へと落ちていった。
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