【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈2〉
*
その一時間後、僕が侍女に起こされたときには女の子はいなくなっていた。
そのことに僕はとてもショックを受けた。昼間、ヘンリーの言葉に傷ついた時以上に。
そして同時に、自分がそれほどショックを受けていることに驚いた。
どうしてこんな気持ちになるのだろう……そう考えて、僕はすぐに思い至る。
そう。きっと僕はあの子に恋をしてしまったのだ。一目見て、好きになってしまったのだ。彼女の愛らしい寝顔に、心を奪われてしまったのだ。
けれど僕は、王宮の者に彼女が誰か尋ねることはしなかった。だって、もしも彼女が僕の部屋に入ったことを皆に知られてしまったら、彼女が罰を受けるかもしれないと思ったから。七年前のブローチの事件で死んでしまった侍女の顔が、僕の脳裏によぎったから――。
だから僕は、彼女のことは諦めようと思った。たった一度会っただけの名前も知らない女の子。すぐに忘れられる、そう思い込もうとした。
けれど僕は再び出会ってしまった。王宮の侍女見習いとして、新しく入ってきたという、彼女に。
彼女を見つけたときの僕の心の動揺といったら、きっと誰も想像できないだろう。
僕の侍女の後ろについて、部屋の花瓶の花を取り換えている彼女の、その横顔を見つけたときの僕の気持ちは……。
「――君!」
椅子を倒してしまいそうな勢いで立ち上がった僕の顔を、君はとても驚いた様子で見ていたよね。
「君の……名前は?」
恐る恐るそう尋ねると、彼女は少しだけ困ったような顔をして、侍女の方をちらりと見上げた。そうして侍女が頷くのを確認すると、ようやく君は微笑んでくれる。そして――。
「ヴァイオレットと申します、アーサー王太子殿下」
「……っ」