【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈2〉

 僕に向けられた可憐な微笑み。その愛らしさに、僕は思わず息をのんだ。

 その声の鈴の音のような軽やかさに、その瞳の涼やかさに。
 僕の心は、彼女のその声と笑顔に、一瞬で囚われたのだ。

 ――あぁ……ヴァイオレット。――ヴァイオレット。

 こんな気持ちは初めてだ。こんな気持ち、今まで一度だって感じた事がない。胸が高鳴る。心臓が破裂しそうなほどに。今にも叫び出してしまいそうなほどに。

 君以外の他の全てのことが、取るに足らないことだと思えてしまう。今までの僕の苦しみさえも、ちっぽけなことだと思わされるほどに――。

「……ヴァイオ、レット」
「はい、殿下」

 僕に応え、はにかんだ笑顔を見せる君。

 ――あぁ……君はなんて可愛いんだろう。

 僕はずっと諦めていた。誰かに愛されることを、そして誰かを愛することを。
 僕が誰かを愛するなんて、絶対にないだろうと。そんな日は来ないであろうと――。

 だけどそんな風に考えるのは、もうお終いだ。

 僕は君を愛したい。僕は、君に愛されたい。僕は君が――欲しい。

 僕はただヴァイオレットを見つめ続けた。

 君が侍女だろうと関係ない。僕は必ず君を手に入れてみせる。自身の心に、そう誓った。


 それが僕らの出会いだった。
 僕が十歳、そしてヴァイオレットが十二歳のときの、ありふれた秋の日の出来事だった。
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