【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈2〉
「で……でも、男爵家なんて……たいした家じゃ」
いい噂を聞かないって……なんだよそれ。そんなの、僕のこの力があればどうにだってできる。彼女を虐《しいた》げる家なんて、今すぐにだって潰してしまえる。そうだ、僕は王子だぞ。この国の王子だ。できないことなんて何もない。
僕はヘンリーを睨みつける。それは僕の初めてのヘンリーへの対抗だった。
けれどヘンリーはかすかに眉を上げただけで、決して気分を害した様子は見せなかった。それどころか彼は、平然と僕を見据える。
「だからこそ、だろ。男爵家なんて確かにたいした家じゃないさ、父上に頼めば一瞬で潰してしまえるほどにな。そう、パークス家には後がないんだよ。いい噂が無いってことは尚更、そういうことだ。君があの侍女と仲良くなったらどうなると思う? パークス家はこぞって君に取り入ろうとするだろうな。でも、そうなったとき君はそいつらを拒絶できるのか? できないだろう?」
「……ッ」
確かにそうだ。そのとおりだ。ヘンリーの言葉は正論で、いつだって正しくて。それは心から僕を思って言ってくれている。
でも、なら僕はどうしたらいいんだ。僕は、いったいどうやって彼女を愛せば……。
突き刺すような空っ風が、僕の頬に吹き付ける。
僕は目を伏せ、俯いた。もう何も浮かばなくて。どうしたらいいかわからなくて。