【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈2〉

5.十二の春――不吉な予感


 季節が何度か巡った。
 僕は先週、十二歳になった。


「アーサー様、おはようございます」

 起きがけの一杯の紅茶を運んできたヴァイオレットが、いつものように僕に頬笑みかけてくれる。

 あれから僕は、無理に彼女に接触するようなことはせず、ただ主従の関係を通すように努めてきた。
 おかげで今は、あくまで王子と侍女という関係で言えば、割といい関係が築けていると思っている。
 二年前は侍女見習いだった彼女も、今では仕事ぶりを評価され見習いではなくなった。

「おはよう、ヴァイオレット。今日もいい天気だね」

 ヴァイオレットが開けてくれた窓の向こうから、ほろほろとした春の朝日が差し込んでくる。それが寝室全体に広がって、部屋は白っぽく輝いていた。

 ヴァイオレットはいつものような落ち着いた動作で、ティーソーサーを僕に手渡してくれる。僕はそれをベッドの背に背中を預けたまま受け取り、ゆっくりと口に運ぶ。

 ――うん、美味しい。いつものヴァイオレットが入れてくれるお茶の味だ。

 僕がほっと息をつくのを見届けてから、ヴァイオレットは口を開いた。

「本日はいよいよ、アーサー様の十二歳の誕生日パーティーでございますね」
「そうだね。はぁ、パーティーか。あまり得意じゃないんだよなぁ」

 今日の誕生日パーティーには、国中の貴族の子息、息女が招待されている。
 年齢は八歳から成人前の十五歳まで。この国の貴族の家の男子は十三歳から寄宿学校(パブリックスクール)に入るので、その前の僕のお披露目を兼ねているのだ。
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